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とある鬼の一族のゆるい日常

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頭領とは



鬼の一族のひとつ、竹沢。
力の竹沢と呼ばれるほど、鬼としての力の強い者が多い一族である。
今、その竹沢の本家に力の強い鬼たちが集まり、作戦会議が行われている。
竹沢本家は純和風の広大な屋敷で、その母屋にある三部屋が襖を取り払って大広間として使われている。
部屋には、男も、女も、年少の者も、年配の者もいる。
男にしか鬼の血が受け継がれない男系の鬼の一族や、それとは逆の女系の鬼の一族もあるのだが、竹沢は男女を問わず鬼の血が受け継がれるのだ。
そして、今、集まっている者たちは皆、美形と言える顔をしている。
鬼はその力が強い者ほど容貌が美しい。
これは他の鬼の一族でも同じだ。
「幸いにして、敵方には俺たちの個々の顔は知られていない。だから、この中から数名を選び、敵方に潜入させようと思う」
きびきびと話す青年も美形だ。
しかし、女性的なやわらかな美しさではなく、きりっと引き締まった雄々しい美しさである。
青年の名は、竹沢修一。
現在の竹沢の頭領の一歳年上の従兄弟だ。
彼の提案に、部屋にいる者たちは賛成するようにうなずく。
その反応を見て、修一はさらに言う。
「俺は潜入する人員の中に入ることを希望する」
すると、他の者たちは先程と同じようにうなずいたりと異論のない様子を見せた。
そのとき。
「じゃあ、僕も」
美声があがった。
修一の隣に座っている青年が発した声だ。
美形の鬼がそろっている中でさえ、その容姿は群を抜いて美しい。
印象は修一とは異なり典雅である。
そこだけ別世界のような、光が当たっているかのような、この世のものとは思えない美しさだ。
竹沢正樹。
竹沢本家の当主にして、竹沢一族の頭領である。
たぐいまれなる美貌があらわしているように、鬼としての力も他を圧倒している。
最強、と他の一族の鬼たちも認めている。
その正樹の顔を、修一はじろりと見た。
そして。
「却下だ」
威厳を漂わせ、きっぱりと言った。
正樹は柳眉を寄せる。
「なぜ僕が却下される? 僕が強いことをよく知っているはずだ。それに、僕は竹沢の頭領だ」
「それがどうした」
だが、修一は強気な姿勢をまったく崩さない。
「不満があるようだから、皆に聞いてみよう」
その眼を正樹から、他の者たちへと向ける。
「正樹の潜入に反対の者は、挙手!」
そう呼びかけた。
直後。
正樹以外の全員が手を挙げた。
それを見て。
「え」
正樹は絶句した。
そんな頭領に対し、鬼たちは口々に言う。
「頭領は目立ちすぎる」
「そうそう。正樹さん、歩く警報機って呼ばれてるの知らないの?」
「ハッキリ言って、潜入に付いてこられたら邪魔っすよ」
彼らには容赦というものがない。
一族の頭領に対しても堂々と意見する。
それが竹沢の家風だ。
「……歩く警報機……邪魔……」
正樹の麗しい顔に陰が落ちている。
「いくらなんでもひどすぎない?」
そう問いかけた。
けれども。
「じゃあ、俺の他に、潜入に参加したい者がいれば、立候補してくれ」
修一は何事もなかったかのように鬼たちに呼びかけている。
それに応じるように、何人かが手を挙げる。
作戦会議は修一が主導して着々と進められていく。
正樹は完全に無視されている。
「頭領って、なに……?」
ひとり寂しくつぶやく正樹だった。