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りんみや あんにゅい4

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「いや、すいません、身近すぎて、労りの言葉を忘れてました。」
「はははは・・・そんなのいいさ。俺たちだって、あんたに、そういうことは言ってない。」
 一本貰うよ、と、佐伯がタバコを手にする。結局、ミイラ取りがミイラになって、三人で、のんびりと青空を眺めてしまった。




 ようやく、服を一式貰って、外出した。しかし、くどくどと外出前に、医者と女房の秘書から、注意事項を聞かされ薬まで手渡され、さらに、トドメに、GPS機能付き携帯を渡されるに至って、さすがに、カチンと来た。腹が立ったので、病院の受付に、医者宛の届け物と称して、携帯を預けていくぐらいの嫌がらせはしておいた。
「よおう、松村。おまえの奥さんって、すっごい金持ちなんじゃないのか? 」
 開口一番、和田が、こんなことを言った。
「はあ? 」
「だって、さっき、その奥さんの秘書から連絡があって、ここの場所を確認したぞ。」
「え? 」
「おまえを、ここで待たせておいて欲しいって伝言だった。」
 こういうことをするのは、浦上の悪戯というものだから、いいのだが、おいおいと内心で突っ込んだ。ビジネス上に口を挟むのは厳禁だと言ってある。
「わかった。じゃあ、場所変えて、打ち合わせさせろ。」
「はあ? 」
「うるさいんだよ、あいつは。だから、違うところでやろう。そこの公園でもいいし、屋上でもいい。」
「でも、松村。おまえ、入院してるんだろ? だから、迎えに行くって・・・」
「大袈裟なんだよ、あの人たちは。たかだか、風邪ぐらいで、そこまで言う過保護な人たちなんだ。」
「うわぁー、寒いなあ、それ。」
「だろ? とりあえず、仕上がりの確認して、細部のチェックをすれば、ここの用事は終わりだ。」
「わかった。逃走するなら、バイクを貸そう。」
「ああ、助かる。」
 いちいち、病院まで拉致されるなんて、勘弁願いたい。とりあえず、この仕事さえ終われば、気分的に楽になる。そうしたら、ちょっと、逃亡してやろう、と、りんは考えていた。




 うまい具合に逃げ出して、そのまま借りたバイクで、海まで走ることにした。五年ぶりに、ひとりになったら、なんだか笑えてきた。別に、辛いと思ったことはないが、気が抜くのは難しかった。
ざわりざわり
 静かな波の音が、心地よくて、防波堤に座り込む。ようやく、一山越えた。そう思うと、心の底から気が抜けた。
・・・・おまえ、今、笑ってるか? みや・・・・
 遥かに遠い場所にいるはずの子供を思う。泣いているかもしれないが、そればかりではないはずだ。あの義理の父は、子供のことに親身になっている。だから、そういう意味では信頼している。籠ではなく、箱庭に飛び立たせてやれた。ここから、少しずつ、外へ繋がればいい。どれくらいの時間が許されているのかは、定かではないが、それでも、この五年間よりは、良いものではあるばずだ。
「さすがに寒いなあ。」
 軽い外出用の服では、バイクは寒かった。ホットの缶コーヒーをカイロ代わりにしているが、それでも、すぐに冷たくなる。
 さて、今夜はどうするか・・・このバイクは、明日まで貸してもらえるので、近くの民宿にでも泊まろうかと腰を上げたら、背後からライトが照らされた。
「甘いんだよ、りんさん。」
 照らすクルマから降りてきたのは、浦上で、さらに、和田まで同行している。携帯は置き去りにしてきたはずだ。和田には、行く先なんて告げていない。
「えーっと、なぜ? 」
「そのコートに、発信機を付けさせていただきました、林太郎様。お戻りにならないと、奥様が心配されますので。」
 慇懃無礼に、浦上が会釈する。ニヤリと和田には、わからないように、笑った。そして、「和田様、バイクを、この場で返却させていただいてもよろしいでしょうか。」 と、笑顔で問答無用と背後から脅しの勢いを曝け出して、さらに、頬を歪める。
「はい、結構です。」
「申し訳ありません。」
 そういう人種とは、逢った事が無い和田は、すっかりと騙されている。
「松村、おまえ、すっごく悪いそうじゃないか。そんなちょろちょろと逃げてないで、ちゃんと治療を受けろよ。」
「おまえまで、何を言い出した。」
「ちゃんと、俺は説明してもらったんだ。そういうことなら、うちの仕事は、しばらく、しなくてもいい。」
「いや、和田。違う。」
 いや、違わない、と、浦上は内心で、ため息をついている。常識人の和田は、ちゃんと説明を聞いて理解したが正しい。バイクの鍵とヘルメットを、りんから取り戻すと、さっさと、そのバイクで和田は引き返していった。
「えぐいことするんだな。」
「いいから、乗ってくれ。ぶり返すぞ、りんさん。」
「仕事のことは、治外法権だと言ったはずだ。」
「通常ならな。だが、今は、緊急だった。」
 元気になったと思い込んでいるりんが、どこで電池が切れてしまうのか、小椋でさえ見当がつかない。だから、居場所を特定できるものを用意した。
「携帯はフェイクか? 」
「まあ、そんなところだ。病院がイヤだっていうなら、ここいらで泊まりでもいい。とりあえず、横になってくれ。」
 ギラリと、りんの瞳が光る。本気で怒っている。
「俺が先に死ぬほうがいいんだろ? なら、このまま、放置すれば死ぬぞ、ウラさん。」
 きっちりと、りんは、浦上の心を読み取った。それが、りんの特殊な能力だ。普段は、絶対に、他人に使わないが、相当に怒っているらしい。
「今は、まだ困る。みやくんが、一人で生きていけるようになってからでないと、みやくんも道連れになる。」
「心配しなくても、鳥頭だって、何年保つかなんてわからない。」
「りんさんっっ」
「俺の邪魔ばかりするなら、俺も抵抗する。」
「すまない。だが、病院には戻ってもらう。」
「なぜ? 」
「説明は、今朝もしたはずだ。完治していない箇所が多すぎる。」
「却下だ、ウラさん。あんまり、しつこいと、あんたを操って、屋敷まで戻るだけだ。」
 人間を、思い通りに動かすこともできる。だから、誰も敵わない。
「やりたきゃやればいい。明日、また、あんたをヘリで搬送するさ。」
 だが、浦上も引き下がるつもりはない。本当に、りんの体調は悪いからだ。
「なんなら、みやくんに連絡して、説教させてやる。どうだ? 」
 さらに、こう付け足す。りんにとって、子供の説教だけは、堪えるからだ。
「・・・わかったよ。もう、いい加減にしてくれよ。」
 さすがに、これを言われると、りんも項垂れる。子供に、自分の体調不良を知られるのは困るのだ。だが、この伝家の宝刀も、一度、使えば、しばらくは使えない。りんが警戒してしまうからだ。







 また、二週間ばかり監禁されて、読書の自由ぐらい与えろと、浦上に訴えたら、とりあえず、この程度なら、と、雑誌を何冊か差し入れてくれた。
「あのさ。できたら、俺は、最新情報が欲しいんだがな、ウラさん。」
「雑誌が早いだろ? ぱそは禁止だ。仕事するだろ? りんさん。」
作品名:りんみや あんにゅい4 作家名:篠義