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りんみや あんにゅい4

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 それらの整理をして、和田の会社だけでなく、出資できそうなところがあれば、出資してみようか、と思っていた。仕事のほうも、自分と組みたいという人間を吟味するつもりだった。そんな用件を片づけるなら、こちらのビジネスホテルへでも泊まって、さっさとやってしまおうと考えていた。浦上には、内緒にしていたから、驚いたらしい。
「あんた、何をやってるんだ? 」
「別に、難しいことはしてない。だから、そろそろ、この入院を切り上げてもいいだろ? いくらなんでも、俺だって、パジャマで仕事に行きたくないぞ、浦さん。」
 ぷかぁ~とおいしそうに紫煙を吐き出して、りんは笑っている。実は、内蔵もいろいろとへたれていて、その治療は、まだ始めていなかったりするのだ。
「それ、却下だ。」
「え? 」
「仕事なら、ここから通えばいいんじゃないか? どうせ、あんたのことだから、一泊三千円のカプセルホテルとかなんだろ? ここ、一応、個室だし、食事はついてるし、風呂とトイレもある。」
「小椋先生がいなけりゃ、いい宿泊所だがな。」
「まあ、いいじゃないか、ついでに治療してもらえば、一石三鳥ぐらいの効果がある。」
「何が、三鳥だよ。」
「そのいち身体が勝手に良くなる。 その二宿泊費がかからない、その三、いちいち、俺が監視しなくても、ここなら小椋と真理子がいる。以上、三鳥。」
「勝手なことを・・・」
「なんなら、あんたに、マイクロチップでも埋め込んでやろうか? 居場所が、すぐに判明するやつ。それなら、野放しでもいいよ。」
「ウラさん、なんで、そんなに五月蠅いんだよ。」
「え? 暇つぶしにいいんだよ。りんさんぐらい手間がかかる人間は、なかなかいないし、人の話を聞かないから、こっちも勝手にやれて楽だしさ。」
 本心は別にある。でも、表向きには、そんなところだ。



 この無頓着には、先に極楽へ逝って貰いたい、と、浦上は思っている。いや、おそらく、小椋も思っているだろう。これを遺しておくと、後の人に迷惑だし、たぶん、自分たちの後輩は、りんの無頓着に呆れるよりも、困ってしまうだろうからだ。自分たちは、りんより年上で、少しばかり説教とか小言を受け付けて貰える。だが、りんより年下の人間なんて、無理だろう。
「無理心中するなら、声をかけてください。いい薬がありますから。」
 冗談で、小椋が、そんなことを言った。無頓着を治す薬はないが、この無頓着を、この世から抹消する薬は存在するのだ。
「はあ、とりあえず、来週ぐらいには、一回、外出させてくれ。和田のとこのやつが、仕上がる時期だ。」
 暢気に、青空を見上げて、りんは、自分の都合を告げてくれる。一応、病院から退院することは諦めたらしい。
「まだ、具合がよくないんだろう? りんさんが、そんなに簡単に折れるのは、おかしい。」
「うーん、よくないっていうか、なんか、寝過ぎで身体がしんどいっていうか、そんな感じ。一日、ベッドで過ごすっていうのも、疲れるもんだよ。」
「そういう問題か? 」
「その程度だろうなあ。ウラさんこそ、たまには、人間ドックに行けばいいじゃないか。あんただって、年男を越えたんだから、そろそろ、どこかに故障があっても、おかしくない歳だぜ。」
「ご忠告痛み入るね。だが、残念ながら、俺は年に一度は、定期検診を受けている。あんたなんかより、健康には気遣ってるし、あんたより、俺は至極健康だ。」
「いや、似たようなもんじゃないか? あんただって、その歳で、海外飛び回ったり、徹夜仕事したりだぞ。」
 りんの感覚では、そのぐらいのことらしい。浦上も同じくらいに働いてると思っているわけだ。そりゃ、あんた・・・と、浦上が苦笑する。その三倍ぐらい動いているはずの男は、自分の行動量も把握していないらしい。
「いや、あんたよりは暇だ。俺は、瑠璃さんに、くどくどと文句を言われてデートするような用事はないからな。」
 あまりに構わないので、女房が、わざわざ仕事場まで嫌味を言いに来ることがある。さらに、それが嵩じると、仕事の邪魔をする。いきなり、仕事場で、女房に押し倒されるという現状は、いかがなもんだろう? と、りんが浦上に愚痴ったら、「そうなる前に、スキンシップぐらいしてくれ。」 と、デートを推奨された。とはいうものの、この無頓着は、ドライブに一時間とか、庭を妻と散策とか、ちょいとコンビニまで同行とか、お手軽なところで、手を打っていたりする。それでも、「りんさんが、自分のためにしてくれるから。」 と、それで満足しているらしい。どこの女学生だか・・・と、浦上は大笑いしたほどだ。


「こんなとこで、何やってんだか? あんたらは。」
 ベンチで世間話をしていたら、背後から声がした。佐伯が風呂敷包みを手にして、仁王立ちしている。
「林太郎さん、あんた、病人だっていうのに、だいたい肺炎の人間が、こんな寒いところで、タバコ吸ってるってさ。もう、人間として、どうかと俺は思うぞ。」
「やあ、いらっしゃい、佐伯さん。禁断症状が酷くて。」
 りんは、いつもの調子で、ぷかぷかと紫煙を吐いているし、浦上も苦笑している。あまり締め付けて、逃亡されるよりは、ということなんだろう、と、佐伯にもわかる。わかるが、悪化させそうな状況は、まずいだろう。
「昼飯をこさえたから、ちょっと食わないか? 」
「俺は、みやじゃないんだから、差し入れなんていいのに。こんなことするくらいなら、芙由子さんと、旅行でも行けばいいじゃないですか。」
「行ってきたよ。昨日まで、温泉三昧させてもらったさ。」
「え? 」
「あんたが倒れて、屋敷は無人だったから、セキュリティーをかけてしまったんだよ。だから、一週間ほど、俺らも、旅行というか、締め出しっていうかさ。なあ、浦上さんよ。」
 いくら、どでかい私有地の真ん中にあるといっても、屋敷を無人にするわけにもいかない。林太郎を病院に搬送して、それから、屋敷のセキュリティーを作動させることにした。仕事は、街のオフィスでもできるから、別に、屋敷にいる必要はない。電話も、転送させればいいので、手続きして、佐伯達にも、一週間ほど、家を離れてくれと、頼んだのだ。
「セキュリティーの問題がありますからね。でも、よかったでしょう? 私が予約しておいたところは。」
「ああ、なかなか、よかったよ。」
「瑠璃さんから、佐伯さん達を慰労しておいてほしいと、言われてましたから。」
「え? 」
 りんは、すっかりと忘れていたので、そういや、そうだよな、と、慌てた。浦上と小椋には、そういうことをするつもりだったが、もっとも身近な佐伯夫婦のことは、念頭になかった。
「いや、慰労なんてさ。どっちかっていうと、打ち上げってやつで、まりちゃんや、林太郎さんたちも、みんな揃って、温泉でも行くほうがいいんだ。でも、ほら、林太郎さんは、こんなだからねぇ。」
 佐伯も、苦笑する。本当は、子供が、祖父のところへ出かけた時に、そんな話があったのだ。ただ、林太郎は、「あーせいせいしたぁー。」 と、さっさと仕事場に籠もったものだから、話は断ち切れになった。
「お疲れ様でした、佐伯さん。」
「今更、ここで、それを言うかい? 林太郎さん。」
作品名:りんみや あんにゅい4 作家名:篠義