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天国へのパズル - ICHICO -

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「落ち着いたところで、初めまして。私の名前はクローディア。」

 怖ず怖ずと会釈をして握手をするヨリを見て、いい子だと笑った。
 目の前にいる女が愛想笑いをし、なにか企んでいると判ったものの、名乗ろうにも自分の名前が出てこない事に気がついた。開きかけた唇をクローディアの指が押さえた。ヨリに持っているものを見せる。

「喋んなくても、あんたの事はこれで大体分かってる。ま、ソフィーがヘレンの娘を使って、あんたにShrineを引き継いだ位までだけど。」
「情報…って…」

 聞き返したヨリを見て、クローディアの目が細くなる。

「そのうち分かるようになるさ。とりあえず今から言う事だけ理解して。」

 クロディアは袋をヨリの眼前に差出し、強い口調で言葉を続けた。

「あんたが持っていたこれは、ソフィーがぶっ壊したいと思ったモノ全部に繋がってる。そして私達はそれをぶち壊すだけの情報を引き出す事ができる。…・だから、コレに言って頂戴。私に協力しろって。」
「協力って……何を?」
「とりあえずあんたはどうするのか聞けばいい。もしも私につくって言ったなら、あんたの身柄は保障する。手に付いてる刺青も消してあげるし、仕事も保護者も世話する。分かった?」

 しばし間を置いて、ヨリは頷いた。それを見てクローディアは再び笑い、ヨリの傍にShrineを置いた。姿勢を正すと腕を振り上げ背を伸ばし、ほっと息を吐く。
 
「返答は起きて歩けるようになるまで待つわ。それがどちらを選ぼうと、これからどうしたいのかはあんたが決める事だもの。」

 爽快な笑顔を浮かべるクローディアを見て、ジンは溜息を吐いた。

「相変わらず無茶苦茶だな。この子は何も知らないままここにいるんだぞ。」
「何を今さら。あんたもこの子も、そして私も。誰かが勝手に選んだ哀れな子羊じゃない。子羊に選択権は無いし、そんな私達を誰が自由にするの?」

 ジンは黙り込んで、ヨリを見下ろす。不安げにこちらを見ていて、ジンは頭を撫でた。
 そしてまた溜息を吐く。溜息を吐けば不幸になると言うが、吐いていなければ心は穏やかになれない場所に自分は存在していた。数えればキリがないけれど、そこから離れなければ今の倍ほど溜息を吐いていただろう。
 お国の為。世界の為。勝手な文言を並べ立てて生きる父親達の謀略とその姿に幻滅し、自分と同じ名を持たぬ友人の協力によって、その一端を支えるモノを奪取する事に成功した。そして彼の引導によって、それはジンの手に引き継がれている。
 クローディアの言うとおり、拒否権は無いし、選ばれてしまった事は紛れもない事実だった。

「私達に使われるのが嫌なら勝手にどうぞ。手っ取り早くその子を連れて土下座でもしに行けばいいわ。あんたのサイコなお父様、諸手を挙げて喜ぶわよ。」

 クローディアは難しい顔になっていくジンを見て、わざとらしい笑い声をあげた。
 自分の使っていたShrineを奪われたとはいえ、ジンの父親は未だに組織の中核にいる。
 クローディアが言うとおり、戻れば喜んで息子とジンの腕の中にいる少女の命を断ち、Shrineのシステムの再構成を組織のプログラマーに依頼するだろう。
 そして目指すだけのShrineの数が揃えば、亡き女帝が望んだ選別による淘汰が始まる。
 未だ戦火の名残が残り、壁を作って命の形を繋いでいても、全ての生物を生かす程に世界は回復していない。彼らの目的は神と大多数の権限と銘打ち、Shrineを使っての間引きを行い、彼等の選んだ有能な人間による世界の統括だ。
 ジンの願いは人として生きた証が欲しい。ただそれだけだった。彼らの狂気を孕む力を断ち切る事は、彼なりの過去に対する精算であり、クローディアを拘束するシステムの初期化を目的とするラルフに共鳴し、ジンは此処にいる。
 答えは分かり切った事。なのに、ジンはヨリを抱く腕を解いて呟いた。

「分かってる…でも、時間をくれ。」