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天国へのパズル - ICHICO -

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 現在のhollyhockは本業を情報収集メインにしているが、以前は人数も多かったし、武装力が主だった。ある程度の事は紹介等で制限を掛けているものの、『金』が全てを動かしている。もしも公に関わる依頼を受けてしくじる事があれば、hollyhockの姿を表に晒す事になってしまう。金で命を買っているつもりは無くとも、メディアの標的となった人々は彼らを悪と呼ぶだろう。
 それ故、オリバーは事の顛末が明らかになるまで、皆を傍観者にしつづけたかった。しかしクローディアは、自分の元に火の粉を持ち込まぬ二人を、事件の盤面へ放り込んだ。
 『犯人確保』のみの依頼内容に、ソフィーの所持していたShrineの在処を知るであろう『イデアの保護』を付け加えて。
 
「ま、オリバーの考え過ぎだよ。もしも私が向こうの人間なら、そんな面倒な方法取ったりしないわ。」
 
 アンジェラはチョコレートが入った手のひらサイズのボックスをラルフに渡し、ウイスキーを自分のタンブラーに注いだ。
 
「だって殺った奴等の身体を使うなんてサイコ染みた事、人に罪を被せるには問題多過やしない?それに、人海戦術を組もうにも、両手の数だけの死人をコンスタントな勢いのまま量産してるのよ。金と人手があったとしても、普通に出来るもんじゃないわ。」
「じゃあそれをやりそうな金持ちの見当はついてるのか?」
「全然。そっちの趣味がある人の見当は付いても、やっている対象があの兄弟の知り合いのみ、表面目的を『私怨』裏側を『Shrine』にしてしまうと、本物の化物探すより難しい話ね。っつか、死体を使える奴捜さない限り無理な話でしょ。」
 
 まず、私怨だけでここまでやりたがる人間がいるのなら、その顔をじっくり見てみたい。そんな事を思いつつ、今度はドライベリーのクッキーを口に入れた。
 
「ま、クローディアもオリバーと同じ方向をちゃんと見ているわ。今日クローディアが会いに行ったのって、セレブリティのパパラッチとパイプ持ってた奴でしょ?」
「ああ。で、あの様だ。」
 
 クローディアがハッキングできるのは公的機関等のデータまで。権力を持つ者になれば、データ管理は一般のネットワークから切り離して管理している。プライベートの内容まで把握しているのは、そちらの方々をリアルに観察する方々ぐらいだ。
 しかしクローディアは親が元・特権階級。それ故、彼らに接触を図ると毎度無茶苦茶な対価を要求されていた。
 以前出てきたお願いは、数年前に演劇賞を総嘗めにした女優のコスプレでピアノ演奏をする事だった。衣装が普段着る風体ならまだしも、彼女が子供向けアニメに出演していた頃の服装で、曲もその時の主題歌と限定されていた。明らかに二次元が恋愛対象の方々仕様の服装で、クローディアは女のプライドを振り上げて、金と情報で解決させている。
 
「クローディアがあれだけ派手にごねたって事は、更に相当馬鹿らしいものが付いていたんだろ。」
「でしょうね。もしくは答えの無い謎かけ付きよ。」
 
 情報屋として有能なモノは、親しみやすい顔をして、本来の目的と自分の素顔を見せない。
 しかし、それを無くしてスキルを得てしまうと、中途半端な自信が人間としての品位を下げていく。クローディアが会いに行ったのは、その気配を全面に押し出す馬鹿だった。
 
「そういえば、ウォルトはどうした?」
「また派手に怒ったからお使いに出した。頼んだ先は『流星の跡』だから、そこそこ叩かれて帰って来るでしょ。」
「また酷い事を…」
「そんな事していると、いつか嫌われるぞ。」
「酷かないわよ。寧ろ私を嫌う位でいいわ。かわいい子は谷へ突き落とせってママも言ってたし、これが私の愛の形よ。」
 
 この場にいた男二人は、笑顔でウイスキーを呷るアンジェラの背中に悪魔の羽、頭に角を見た気がした。
 しかし、哀れんでいるラルフもオリバーも、ヘブンズ・ドアの店はあまり好まない。今の状況では猶更行きたくない。
「仕事の鬼」として有名な彼らが単独で店にいると、客寄せの勢いで集客数が格段に引き上がるらしい。お陰で、どこまでも滞在時間を延ばされるのが目に見えていた。結局行くのは一番の下っ端になる。
 悪い噂をすれば、その影が姿を見せる。hollyhock一番の若手が、泣きっ面の顔でドアを開けた。
 
「只今戻りました。」
「ご苦労さん。」
「で、今日触られたのは尻?それとも腰?やっぱり前の方?」
「帰ってきた所で聞くって……あんた俺の事を何だと思ってるんですか!」
「馬鹿程真面目な後輩、もとい家出少年。しかも親は上院議員。よっ、この親不孝。」
「親の事は余計です!あの人の癖が分かっているんなら、何で俺に毎回行かせるんですか!」
「お前が一番早いからだろ。分かりきった事を今更聞いてどうする。」
「確かにそうですけど…」
 
 派手に泣きはしないものの、訴える目は切実だった。皆、気持ちは分かるものの、そこまで同情はしない。
 全部を賄える程店を開ける事が少ない所為で、クローディアへの一部の交渉は、別の店のマスターが中継点になっている。
 クローディアが懇意にしている『流星の跡』のマスターは、アンジェラが行くと時折へそを曲げるので、情報の受け渡しはウォルト、もしくはラルフ、たまにオリバーになっている。
 彼は素直すぎるウォルトが大のお気に入りで、わざと腰に手を回す、尻を撫でる、前側をさする…等々。セクハラと訴えたい内容をあらかたされている。別に店は普通なのだが、客層の性癖やら業種やら色々な意味で幅が広い。
 そんな場所へ来る度に、毎度身構えてしまう若者可愛さで、ついついやってしまう彼なりの愛嬌らしい。ヘブンズ・ドアにはウォルトと同じ境遇の者は多い筈なのに、何故そこまで。ウォルトは自分以外でやっている等聞いた事が無かった。
 何故俺だけ。思い上がりと言われかねない思考に囚われる姿を、性別なんてあって無いものと考えるアンジェラはあっさりと叩き斬る。
 
「まだ親しみ持って触ってもらえるだけマシじゃない。私なんか日頃の文句言われた挙句、肌のシミを心配されるのよ。お前はどこの美容部員だっつの。」
「じゃああの人になら、俺が何されても問題じゃないんですか。」
「問題っつか、今ここでそんな小さい事に拘るお前が問題。その辺で男に取っ捕まって襲われでもしたのか?」
「いえ。でも、あの人はそちらの趣味の方なんで。」
「ガッチガチだな。流石お坊ちゃん。」
「全くだわ。尻の穴まで見られた訳でも無い癖に。」
「仕方ないだろう。子供でも男の沽券がかかってる。それ位の意地は張らせてやれ。」
 
 呆れ顔の二人にオリバーが思いやりを出した。しかし『子供』と言われてしまった事で、ウォルトの中で何かが爆発した。先程から詰まった感情を一気に捲し立てる。
 
「ええ、ありません。男に襲われた事なんざありませんよ!俺を雇ってこの店に置いてくれる貴方方の事は尊敬してます。ですが、俺はその恩返しで男に尻の穴まで売る勇気なんて持ってません!」
「ラルフ、久々に名言が出た!痛すぎる!ヤバすぎる!」
「ヤバい前にアホすぎる。素面でそれを言う辺り、極寒だろ。」