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天国へのパズル - ICHICO -

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 お愛想で聞くにしても、付き合いきれない内容だ。早々に切り上げて欲しい。
 逸る気持ちがピーターの語気を荒げていく。
 
「それは本の内容を我がモノの様に使った男達が改心するか、あっさり死んで終わりでしょう。その方が平和だ。子供の御伽話らしい。」
「これはお祖父様が私にくれた御伽話よ。貴方のものではないわ。」
 
 ベルガモットのプライドを傷つける言葉だったらしく、ピーターを諌める様に睨み付けた。
 
「何の為に願いの叶う魔法を作ったのか。神様が人へ与えたのは何らかの理由があった筈。でも、その目的が明確では無いわ。目的をはっきりさせていない所為で、本を持った男達は、創造から破壊へ走り始めたのよ。人を変えてしまったのなら、元の姿に戻す術を形にしておかなければ、魔法は意味を成さない。それに、自分から望んで犬となった子供の裏切りは、放っておいて良いものかしら。姉の裏切りで犬に変わった弟はどうなるの。貴方が話を作るのなら、ちゃんと説明して。」
「それは…・。」
「同じだけの事を研究者として実験体にやるでしょ。私に非道い事だと説教したいのなら、すればいい。それが貴方の正義なら。」
 
 言葉に詰まるピーターを見て、ベルガモットは微笑んだ。穏やかで清い笑顔なのに、その笑顔がピーターの心の形を崩していく。
 
「私の作る物語は、本が壊れなきゃ真意は形にならない。それに、弟を裏切ったお姉さんも壊れなきゃ、賭けの代償にはならない。」
「皆殺しですか……・貴女は物騒な結末を選ぶんですね。」
「ええ、形あるものは何時か壊れるものだから。私はケビンとそういうアドバイスをしたの。」
「融通も器用さも無いあの愚図よりマシだからな。」
「そうね。でもその愚図で遊ぶのが、私は本当に大好きなの。例え、殺したい程憎まれていても。」
 
 優しさに満ちたベルガモットの笑顔。
 少年の欠伸。
 金持ちの遊興。
 歪んだ快楽。
 人を殺す力も無い子供の戯言。
 それら全てが、何故怖いと思うのか。ピーターの心臓の鼓動はいや応無しに早まっていた。
 
「さっき話していた事、予定であって確定ではないモノが沢山あるわ。賭け事は、答えが見えないから大事なモノを賭けるのよね。」
 
 ベルガモットの手がガラスから離れた。黒いラインはガラスと同化して、見える世界をリアルにした。
 薄灰色の瞳が、ピーターをこの場所へ縛り付ける。
 
「やっと気付いてくれた?貴方もこのゲームに参加している事に。さぁ、誰に何を賭ける?」
 
 
 ***********************
 
 
 アンジェラが駄菓子の袋を抱え、奥の部屋に現れた。丁度オリバーとラルフが貰い物のスコッチまで空け始めた頃で、クローディアがいない事を確認すると、安心した顔でソファーに座った。酒のつまみとばかりにジャンクスナックを豪快に並べ、勢い良くチョコレートスナックの袋を破いて机に広げる。
 
「クローディアは無事に寝たみたいね。」
「ああ、お前とラルフのお陰でな。」
「じゃ、そのウイスキーを私にも頂戴。脳の回転上げる物持って来たし、あの馬鹿共に投げた情報考察に私も参加する。」
「参加だけか?」
「ふっほふふほほ、ふふへふんへほ?」
 
 ラルフの問い掛けに答える前に、アンジェラはスナックを掴めるだけ掴んで、自分の口に放り込んでいた。口の中から物を溢れさせない代わりに、話を聞く方は彼女が何を言っているのかさっぱり分からない。オリバーは傍に置いていたタンブラーに、ミネラルウォーターを注いでアンジェラへ渡した。
 
「阿呆。口ン中の物を飲み込んでから喋れ。」
 
 貰った水を一口含んで、口の中の物を一気に飲み込む。
 アンジェラが持って来た駄菓子は、彼女の財布の金で揃えたものばかり。クローディアがまだ起きていたら、彼女が落ち着く迄食べさせて、無理やり寝かせるつもりで持って来た。しかし、その問題児がいなければ、駄菓子の役目は自分の空腹を満たす事と、自分の脳の活動を活性化させる為のモノだ。
 
「ありがと。ま、あいつ等が失敗したら、あたし等だけでなくオリバー達も隠れる準備するんでしょ?」
「ああ。相手が相手だったらな。」
 
 オリバーは空になったグラスにロックアイスを放り込み、ウイスキーを注ぐ。透き通る氷の頂点は、真っ直ぐにそそり立っていた。氷の頂点の様に予想通りの形へ進む不安を、オリバーは感じていた。
 昔、これに似た事があった。
 その時は丁度クローディアの父親が死んだ後、目の前にいる二人がまだ単独で駆け出し始めた頃で、彼らの保護者が標的となったクローディアの伯父から依頼を受けたものだった。
 そして、犯人の盛大な自爆によって、依頼者とその他の警護と共に死んだ。
 資産家の相続に絡んだ事件だった筈なのに、依頼者の思想から政治的なテロと報道され、過去に暗殺業を営んでいたラルフ達の保護者が主犯にされ、彼らは中央府から一旦姿を消さざるおえなくなってしまった。
 その時も連続して人が死んでいる。そして、事件の背景に『Shrine』が関係している。うっかり巻き込まれてしまった者を除くと、それら全ての結果で利を得ている者が存在していた。
 クローディアの母親・マリアの一族から全ての利権を奪い取ったヘンリー・ロウズがその最もだった。法の名を着て政界に生きる彼の目的は、過去の戦災と今を繋ごうとしたマリアの一族に関わる全てを抹殺する事。
 そして、存在そのものが『Shrine』と同等の存在であるクローディアを、彼の作った檻の中へ入れる事だ。
 彼もしくはそのの関係者がいるとすれば、最後はクローディアが狙われる事になる。
 
「内容と過程は違っても、どうもステラが死んだ時と印象が被るんだ。これを作っているのが表にいる奴等、狙われているのがこのメンバーでなければいいんだが。」
「それは無いだろ。今回のは形容が歪すぎる。それに、あの時は最初から強制参加の状態になっていたのに、今回は俺達の自由参加。あいつらが作ったにしては、計画自体が中途半端だ。」
 
 ラルフがアンジェラの駄菓子を掠めながら、朗々と意見を述べた。先程から相当量のアルコールを呷っているのに、素面の時と大差が無い。
 確かにラルフの言うとおり、事件の動機は人捜しをした兄、もしくは姿を消した弟が立てている雰囲気でしかない。この事件の本質を彼らの目標に同調させるには、事件との関係性をはっきりさせない限り、目的そのものが支障をきたしてしまう。
 そして、イデアの子供が『犯人』にされる前に死んでしまえば、一番の悪人に仕立てられるのは、彼女を追う奴等になる。なのに、今回の事件はオリバーやラルフへの強制参加要請では無く、何ら繋がりの分からぬ者からの依頼でしかない。
 嫌であれば拒否も可能、伏せる事も可能。
 そんな逃げ易い罠で嵌める。そんな甘さを見せる奴等ではないのを、ここにいる3人は身を以て知っていた。