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天国へのパズル - ICHICO -

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「それで、君は追われる立場で何処に行こうとしてるんだ?」
「さっきのビルの下にある闘技場。一回だけ先生がDr.として行った事があったの。その時、知り合いに頼まれたって言ってたんだ。約束でここには来ちゃいけなかったけど、場所だけは知ってたから。」
「へえ、誰との約束?」
「先生との。私より喧嘩が好きで我が儘な人しかいないし、私が嫌がる事しかしてこないから行くなって。貴方みたいな人でしょ、そういう人って。」

 アルトを真直ぐに指差す。派手に怒るかと思いきや、正解だと満面の笑みでヨリの頭を撫でていた。しかしさっきのハグより強引で豪快なので、しっかり嫌がられている。ヨリの嫌がっている触れ合いをあえてやる辺り、アルトらしいと言えばアルトらしい。
 そしてアルトが真面な事を聞いてくれたお陰で、件の外科医に人権論者という情報が加わった。彼は彼女をどうするつもりだったのかは分からずとも、普段の扱いは子供と同じにしていたと推測できる。
 確かにヘブンズ・ドアと対に表現されるシークレット・ガーデンは、マーケットらしく流行の発信地になる事が多い。しかし、見た目が十人並みの世間知らずが物見遊山でやってきたら、金儲けの良いカモにされる。誘惑と知恵比べに負ければ、うっかり日陰の道に落ちていく。

「その知り合いの名前は?ここに来た位だから覚えてるんだろ。」
「……覚えているのは顔だけ。多分、悪い人じゃないと思う。無茶な事を言ってなかったし、銃を持ってなかったから。……私1人で探そうなんて馬鹿な事かもしれない。でも、何もしないよりマシだと思って。」

 凶器は見せていなかっただけで、恐らくは興行者のお仲間だろう。そうで無ければそんな場所に普通の医者を呼ぶ訳が無い。相当生活に困っていた上に、専門を問わず仕事をしていた事が伺える。
 そして、唇を噛み締めているヨリの目に嘘は無かった。

「やばい、これは本気で可愛い生き物だ。お前がいらんのなら俺が飼う!」
「お前の願望は聞いとらん!!」
「もう触んないで!私はペットじゃない!」

 ジンは勢い良く撫でるアルトを押しのけ、混乱状態のヨリに一番簡単な質問を投げかけた。

「じゃあこっちも1つだけ。君は誰が殺したんだと思ってる?」
「………分かんない。でも、先生は犯人じゃない。」
「その根拠は?」

 考え込んだ後、2人を睨みつけると、いきなり襟を肌蹴させて白い肩をさらけ出した。
 太く赤く残る裂傷痕が細い肩で不気味に浮き上がっている。その中には派手に深そうな切創痕もあり、医者の治療が無ければ、彼女の左肩は動かなくなっていただろう。

「先生が患者を殺したりする藪医者だったら、私はとっくに死んでる。」
「説得力に欠ける回答だな。医者なら、病は幾らでも治す。それが人殺しの道具で…」

 人殺し。
 ジンがそう言うと同時に、ヨリはビール瓶を振り上げていた。咄嗟に上げた腕で瓶は砕け、ジンの耳元で乾いた音が響く。

「誰もヒナを殺してくれなんて頼んでない!」

 ジンの言った一言は、ヨリにとっては一番の侮辱だった。
 所詮、人でなしは人殺しの道具にしかなれない。そのひとでなしを使う奴が犯人だから逃げ回っている。
 手の刺青を見る度に、そう思われても仕方の無いのは分かっていた。しかし、直接言われてしまえばショックもひとしおで、少しでも気を許した気持ちがヨリには情けなく思えてくる。

「私は『ヒナを守って』って言われたの。物覚えも悪くて、真面に人と思われない私に頼んだのよ。それに先生から人を殴っちゃ駄目だって言われたけど、人を殺せって言われた事なんか無い!」
 
 情けない気持ちを振り払う様に必死に自分の言うものの、感情の高ぶりで段々言いたい事が纏まらなくなってしまい、その状態が更に情けなくなっていく。気がつけば涙で視界がぼやけていた。

「殴られたり蹴られたりすれば、痛い事はちゃんと分かってる。分かってるから、許せないの。それに……」

 溢れる涙を拭い、目の前にいる大人2人を見上げた。
 自分のやってい事が悪いと言うなら、自分のやる事全てが悪事で結構。只、そう呼ばれるべきは自分だけだ。
 譲れない部分を伝えない限り、今此処に留まっている理由が分からなくなる。

「先生が悪者になるのは、絶対嫌。」

 強い意志と、揺らぐ事の無い感情。それを毅然とした顔でぶつけられてしまい、ジンは返す言葉を無くしてしまった。
 的外れなアルトの妄言は、恐らく外してはいない。
 この人殺しの狂宴を考えた主催者は、行方知れずの医者でも、持ち主を無くしたshrineでもない。勿論彼女でもなく、何らかの目的があってshrineを知っている第三者が始めた事だろう。
 人形になる事を拒絶し、人間である事に執着する彼女に人殺しをさせる方法なんて、そう簡単に出来るものではない。たとえ切っ掛けを作ったとしても、ほぼ思い通りには動かない。精々処理できるのは数人が限界だ。
 隠れ蓑になっていた彼女を押さえれば、主犯の次の一手は自と決まる。新たな傀儡で流言を探すか、手元で動いていた人形を取り返す為に仕掛けてくるか。事件の様相を考えると、前者の選択は無い。

「すまない。傷つける事を言って。」

 アルトは呆れた顔をして、ジンを見ていた。

「で、どうするよ?」
「分かってるだろ。」
「まぁな……でも行く場所にロマンも糞もねぇなぁ。残ってるのはさっきやっちゃったし、そんな馬鹿しか残ってないだろ。お前みたいな核弾頭出て来てくれなきゃ燃える事もできん。」
「来たくないなら来なくていい。」
「そうやって俺の取り分取る気だろ。」
「ああ、貰う。来ても何もしなけりゃ全部貰う。お前のポケットには友情で貰ったトカレフがあるじゃないか。」
「あいつらとの友情なんてクソ食らえだ。俺は将来愛人になりそうな野性児を取る。」
「嫌!絶対嫌っ!!」
「じゃあ俺等がお前を手伝ってやるっていうのは?」
「……え?」

 きょとんとした顔で見上げるヨリの頭を、アルトがわしわしと撫でる。
 先程から散々撫でていたからか、ニットの帽子が落ちて薄茶色の髪がはらはらと肩に落ちた。

「信用してる俺が手伝ってやるんだから、もう泣くな。涙の安売りは女の価値を下げちまうぞ。」
「阿呆、お前1人じゃないだろ。」
「……どうして?何で手伝うの?」
「さぁ、なんでだろうな。」

 ジンはまた泣きそうな顔になっているヨリの頭を撫でた。アルトの言う通り、殺人鬼にするには確かに勿体無い。

「んじゃ、さっきの場所と、も一度Dr.のいそうな場所行っとくか。」
「医者は別の場所にいるの?」
「そうだぞ。基本別棟、負傷者の運び入れも別。要らぬ金は掛けないのが商売の常識だ。この辺りはおいらの故郷なーのよー。だーからー物知りー。」
「毎度、故郷の多いことで。その下手な歌は止めてくれ。」
「やーめなーいさぁー。望郷の思いで歌ってるんだ。根無し草で生きてりゃどこだって故郷なんだよ。」
「ああ、ハイハイ。」