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天国へのパズル - ICHICO -

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「ソフィー・ヴィンセント……フォールヒル内乱で反政府側に荷担した元・中佐。≪shrine≫保持者と言う事で5年前に指名手配になっている。」
「正解。本人は内乱時に死亡が伝えられているものの、未確認のまま。そして彼女が所有していた刀剣の≪shrine≫は行方知れず。あの捨て駒からの情報だから確証はない。それでもあの馬鹿に頼んだ男の話を辿りに、クローディアが情報漁れば嫌でもその名前が出てくる。」
「関連性の無さそうな今回の件から、どうしてその名前が?」
「彼女の死を報告したのが、依頼した事件にいた被害者の父親。そして重要参考人のイデアの保護者。そんな人間が3年前の捕捉から、軍も警察も居場所を確認出来ていない状態ならどうする。」
「……だから他でも必死で探してる訳か。」
「そうだ。奴が知っていたのはほんの一端だったが、元・リーダーの残したデータからもクローディアが見つけてくれた。イデアだけでなく俺やお前と同じ人間がこの凶行にいるかも知れんとなったら、元を断たない限り何も止まらない。うちにこの仕事投げた理由もそれがあるんだろう。」

 夢で告げられた言葉はこの事を指していたのか。あまりの状況の芳しくなさにジンは天を仰いだ。
 イデアが凶器の如く動き回れる人形ならば、《shrine》は神の代行者。両方が出てくれば事件性は危険度を増していくばかりだった。
 《shrine》の意味を説くにはこの国の歴史について振り返らねばならない。
 この世はおよそ100年ほど前に兵器の暴走によって一度RESETを経験している。
 その理由は知れたこと。宗教と理念の違いからの国対国の争いが広がって、ほんの少しの兵器が人類の半分以上を削ってしまった。残ったのは広範囲を覆うシェルターで、我の張り合いから逃れることの出来た人々のみ。
 自然の淘汰。そう言うと聞こえはいいが、シェルターの外にはあまりに酷い世界が広がっていた。
 草も木も育たない荒廃した世界。外に出れば高濃度の放射線被曝。まともに外に出る事は叶わず、現状を維持するを持たないままの期間を過ごさねばならなかった。
 その為に安全確保が第一となり、出来る事と言えば失われてしまった過去の遺物を利用する位しか無い。
 過去の遺物というよりも、資源不足なRESET後の技術力では到底創造不可能な代物が生活の場に存在していた。
 例えば外界から街を隔てる防護壁(シェルター)。非常に強固なもので、これが建造されたのはおよそ120年前。RESET以前の過去に建造されたものが殆どだ。普通に歩けば被爆してしまう外界から、町を中心とした広範囲をドーム状に造られている。ドームを形成する素材は特殊なシリコンと透過型の合成樹脂をメインとし、柔い蛹を包む繭のように強靱な構造をしていて、光や大気を取り入れる代わりに放射線など有害要素を全て遮断。形あるオゾン層の様に現在も外郭をしっかりと維持している。
 そしてドーム間を繋ぐ列車は防護壁と同じ機能を持ち、太陽光発電で動く優れた輸送車だった。
 それ以外にあるものと言えばドームに囲まれた更地と、暮らしに必要とする最低限の物資、そして身を守るための最低限の重火器のみ。
 ドームの中に閉じ込められるうちに、外界から町を守る防護壁のように強固で安全な物と対を成すように、外界へと開放する物が必要とされ、それらは教養ある一部の人間に全て託されることとなった。
 託された側からすれば苦難と茨の道ばかりが目の前に広がってる。何をどう考察すればいいのか分からない者しかいなかったのだから。そんな状況でも任された者は身を削る思いで結果を残し、奇跡を形にしていった。
 今現在存在するものの半分は遺跡群から解析された技術を応用したものものが殆どだ。
 また人類存亡の為と称して、生き残った人間にもメスは向けられていった。いわばイデア・プログラムもその影響を受けたものになる。結局の所は倫理的観点から非合法の烙印を押されたものだが。
 そんな状態で約60年前、中央府直属研究機関「TOOW」の遺跡探査研究チームによって過去へ繋ぐ“意識”を過去の遺物から発見するに至った。
 それが《shrine》と呼ばれる事となる。
 《shrine》は物質を介して存在する意識体があることまでは判明している。が、詳しいことは未だ不明のまま。分かっている事は彼らが自分の持つシステムの媒体に人間を選び、今のシステムでは実現不可能な現象を引き起こす事ぐらいだろう。
 まさに神の発見に近い。
 残された奇跡と迷走の残骸が混在するこの事件。どちらにもある程度の知識があれば、逃げ出したくなる危険さを孕んでいる。
 もしも神様と人形が悪い方向へ相互作用を起こしていたならどうなるか。更に死人の数は自乗されていくばかりで、普通に解決する方が難しい。そんな内容の事件を受けてくれる場所なんて此処位しか無い。
 ≪shrine≫と思われるモノを持つ人間2人と接触が図れるのが『hollyhock』の裏稼業だ。
 元々考えるよりも動き回る事を理想とする一本気な馬鹿が、ジンの隣で馬鹿らしい叫び声を挙げた。

「あー。俺にはさっぱり分からん。何があってあのガキが逃げ回ってるんだ。」
「それぐらいの事は本人に聞くしか無いだろ。人間らしい判断力を削られてしまったと言っても、『人間』であることには変わりないんだから。」
「聞いても答えるだけの思考が残ってたらな。どーせ、俺は喧嘩(ガチ)するしか能のねぇアホやってるもんで。」
「アホでも喧嘩ができるだけ上等だろう。リリーはそんな馬鹿だからお前が好きだったんだろうよ。」
「お前までリリーを過去形にすんな。で、あの男は乏しい情報からアタリ位はつけてたか。」

 ジンが言う前に机にラルフはメモの切れ端を置いた。走り書きで記された場所はイデア関連の施設以外にも、イデアによって事故や被害があった場所が並んでいた。

「なんだよ。これぐらいしか無かったのか。」
「これ位でもあるに越した事は無いだろう。他で出てきたら、アンジェラかウォルトが伝えに行く。」
「了解。あの男から情報吐かせた手数料は、この後で貰う報酬から引いておいてくれ。」
「あと、この件に関して俺から追加注文。」
「何?これ以上難しい内容にするつもりなのか。」
「いや。捜索対象のイデアと≪shrine≫見つけたら、依頼内容を優先せずに即刻回収。犯人でも被害者でもどちらでも構わないから、ここに連れて来てくれ。」
「どっちでも構わないって……何か根拠があるのか。」
「あの男が吐いた情報全部が確かなものだと、少し気になる事がある。それだけだ。」