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卒業文集

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ありのままに起こったことを話そう。友人が金を貸せと相談に来た。そうしていると突然停電が起きた。夜だったから懐中電灯を探したら奴がライターで紙に火をつけた。よく見たらその紙にはかの福沢諭吉が鎮座していた。俺はそいつの頭を金庫で全力で殴ったね、うん。
『成金式アメリカンジョーク』



私は満員電車の中ほどにいた。生温い息が首すじにかかり、無遠慮な手が臀部を撫で回す。気持ちが悪い。でも声を出すことは憚られた。しかしそれは羞恥から来るものではない。かすかに震えて俯いた線の細い背中。今の私の状況:仲間に遭遇した痴女。
『数珠つなぎ』



なしてすったらこど今言わねばまいん?わだばこないだいっぺんしか言わねどって言ったべや、いづもおめだばんだんずな、ひどの話こなんも頭さ残んね。すたどこが好ぎでねんだね。おめみてげなのさつでけんのはわぐらいしかいねんだはんでろ!こいだはんでおめはほんずねんだね!
『津ンデレ』



どうしてそんなこと今言わなくちゃいけないんだよ?俺こないだ1回しか言わないって言っただろ、いっつもお前はそうだ、人の話なんにも覚えてない。そういうとこが好きじゃないんだよ。お前みたいな奴についていけんのは俺くらいしかいないんだからな!だからお前は馬鹿なんだよ!
(標準語対訳版)



誰もいない8番シアターで僕は物語を見ていた。それは喜劇であり悲劇であり深長であり単純であり高尚であり低俗であり喜怒哀楽に充たされた奇抜で普遍な起承転結の物語だった。最後に役者はこう言った。「弾けなかった我が同胞に幸あれ!」「幸あれ!」固い豆を噛み砕き万雷の拍手を贈る。
『ポップなコーン』



見知らぬ顔が私を謗る。その中に1人だけ、中学時代の同級生。頭しか取り柄のない奴はこれだから困る。露呈しないように立ち回るのは巧いのだから。4年の前のことと未だ引きずって人を陰から叩くとは下衆の極み。かく言う私もこんな、wwwの片隅で呟く限り下衆の極みだが。
『排他する街Sの窓から』



過去の記憶を塗りつぶして語る話は玉虫色で、それが本当なのかは当人にだってきっとわからない。あたかも自分のことのように語る過去の武勇伝は、度が過ぎるとただの自己顕示欲の塊でしかない。そうなってしまったら、相槌を打つ聞き手より、語る武勇伝を選ぶ話し手の方が疲れそうだ。
『僕が中2のときにですね、』



ひとりきりの教室の静寂を黄色いイヤホンで埋める。彼の思う人生を聞き流しながら炭素が白を汚して綴られるのははるか昔のヒエラルキー。赤いプラスチックで透かした光は毒々しく輝いて、灰色の青春を照らして行く。
『ビビッドブルースプリング』



暖房のファンが音を立てて回りはじめる。一口飲んだコーンスープは温かで、口の中の白い凹凸にかすかな痛みを残して流れていく。数字が減っていくカレンダーに流行りのアイドルのポスター、空調でかすかに揺れる日焼けした時間割。それが私が1日の3分の1を過ごす場所。
『12月某日の卒業生』



結露した窓を小指の先でなぞる。薄桃色の明かりは午前5時にしんしんと降り積もり、まっさらな足跡をつけながら鋭い氷点下の中をくるくる踊る。あたたかな赤のランプが灯り、背後でぼうっと音がして、白煙と懐かしい灯油の匂い。すがすがしくさみしい、冬。
『蛍雪』



「地震、来ればいいのに」低く垂れ込める雲を見て彼女はそう言った。「思いで、作りたいじゃん」地震は確かに忘れられないだろう。「そんな思い出嫌だ」「大体お前青森帰れなくなるよ」そう仲間たちに言われると彼女は悩んだ声を出した。「じゃあ、やめとく」思い出は故郷には勝てないらしい。
『シャングリラ』



懐かしい後ろ姿に古傷がもぞもぞし始めた。友達と笑い合う横顔は、ついこの間まで確かに隣にもあったのに。8月最後の日曜日、涙と焦りの卒業、仲間からただの他人。出がらしの最後の一滴が落ちたはず、だったのに。
『追い炊きの恋心』



少し肩を押しただけでいとも簡単に沈んだ背中。囁いた贋物の言葉に跳ねた言葉尻を拾い上げて遊んでみる。向けられた甘い睨みに微笑んだ。俺は時間をやるからさ、お前の全部を俺にしてやるよ。
『ピンクペッパー』





作品名:卒業文集 作家名:蜜井