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卒業文集

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昨日幸せのピノが3つも入っていたとか、明日古文の小テストだけど全然勉強してないんだどうしよう、とかどうでもいい会話が支配する世界。結局神様の暇つぶしでしかないこの小さな箱庭の中、更に小さな箱、満員電車に揺られる午後8時。
『ベル』



面白き事なき世を面白く、と言ったのは幕末のあの英雄だったか。エスカレーターに流れ作業の部品よろしく流されながらいくつも横たわる線路を眺めた。目的のある道。目的しかない道。汚れた革靴の爪先を見つめていたらもう、何もかもがどうでもよくなる。乗り換えのホーム。
『俎上の鮪』



踏み出す勇気なんてないに決まってる。この一歩も、この先の一歩も。自嘲するみたいに笑って、これからも惰性で生きていくんだ。未来は分からないなんてはずがない。希望。俺の辞書にはその文字はきっとまだない。線を一歩越えたところに立ち尽くしながら、夕飯について考えた。
『ホワイトデッドライン』



別に食べるための物を作ることに苦労は感じない、好きでも嫌いでもない。多分誰にでも好き嫌いにカテゴリされない日常生活がたくさんある。最寄り駅の一駅前で降りて、割引シールの貼られた野菜をいくつか購入。ビタミンがあればどうにかなるというのは俺の根拠のない考えだ。
『ダスト』



商店街の電気屋の前には人だかりができていた。サッカーだそうだ。出掛ける前には宇宙探査船が帰ってきたとかで人だかりができていた。何故この国の民族は集団で何かをしたがるのだろう。そんなことを思いながら、また流されるように足を止めた。壁一面の薄型テレビと人波に溶ける。
『フロイライン』



君が好きだと君が言った、君が好きだと僕が言った。夕暮れの教室で、なんだか映画のワンシーンみたいだった。ツインテールがふわりと揺れて、少し遅れてシャンプーが香る。僕は君を抱きしめる。そんな夢を見て目が覚めた。今日も学校だ。
『ごみ箱にティッシュの山』



「最後のお別れをするとしよう」どうしてだ、とは聞けなかった。彼の背中が緩やかに、そう訊くことを拒絶していた。それならば。「最期の、お別れですね」「一度しか言わないからな」「一度も、言わせませんよ」銃口を口に差し込んで、脳天へ、ずどん。水風船が割れるように終わった。
『ラストダンス』



あいしてる!と大絶叫。グラウンドの真ん中で君に向かって叫ぶ声。拡声器なんか使わなくったってまっすぐ、まっすぐ突き抜ける。僕の気持ちみたいに重い思いの塊を両手広げて受け止めてくれよ、さぁ!まだ僕の名前も知らない君に贈る愛の言葉を!
『一方通行グラウンド・ゼロ』



指、体、心。全てを重ねて踊ろうか。祀り上げられた祭壇の上でくるくるくると。静かなる愉悦と狂気に満ち満たされた、ハイでメロウなラインダンスを。立ってるふりして転がったって泣いたふりして笑ったって生きてるふりして死んだって、もうDoesn't matter!
『Rollin'daze』



27時。海。2人。波。無言。体育座り。無言。無言。君が。立ち上がる。「俺と結婚してください」揺るがないはずの水平線が揺らぐ。返事の代わりに君の手をとる。海へ。波へ。膝。腰。肩。首。摂氏2度に刺されて融ける。君と一緒なら地獄だってどこだって。
『入水祝言』



自分にぴったりのピースを探してたらおばさんになっちゃう。合わないなら形を変えてしまえばほら、誰とでもはまるものなの。いつか王子様がなんて冗長にロマンス待ってる場合じゃない。淫靡でスリルな毎日をちょうだい!吐き出すリアル、レベルファイブ。
『サイコエイジ』



ゴキブリ並の生命力を持つ、と謳われている格闘家に会うことになった。後ろから近づいて丸めた新聞紙で思いきり叩いたら死んだ。次にナメクジのように関節を外して柔軟に動くと噂の奇術師に会うことになった。塩をかけたら動かなくなってしまった。つまらない。
『二つ名の彼ら』



ありふれた男と女の恋愛にエンドロールが流れていく。幸せな終わりだった。誰も傷つかない結末だ。ただ僕が少し寂しくなるだけで。でもまた次の恋を探せばいい、ポジティブシンキング。注意深くビニールを脱がすと、2Dの彼女候補たちが微笑んでいた。俺ならできる。
『虹に溺れる3時』





作品名:卒業文集 作家名:蜜井