昼下り
お互い様だとオレは女を部屋へ案内してやることにした。
後ろから知らない女が付いて来るのには慣れていないが
部屋番号を聞けば大体の位置は分かる。
オレは番号通りのドアの前で自慢げに振り返った。
すると女は何かを見つけたように近づいた。
目線の方を見るとオレの赤シャツはタイダイ柄になっている。
すぐにさっきの事故でコーヒーが飛んだシミだと気が付いた。
ピンクドラゴンの当時物だ、着て来たことを後悔した。
「ちょっと中で待ってて」
女はそう言うとオレの背中を押して部屋へと促した。続けてパソコン
の前に座らせ、肩に一瞬ポンと手を置き出て行った。
一人にされたオレはソファーの上で呆然とする以外なかった。
・・・ソファー?どうやらここは二人部屋のようだ。
女が濡れたお絞りと新しいコーヒーを持って戻るまで
たいして時間はかからなかった。今度は迷わなかったらしい。
女はオレの前で跪きシャツを摘むとお絞りで染み抜きを始めた。
しかし簡単にはいかない様子で時々シャツが引っ張られる。
初対面の女との接近戦、間接的でもシャツで繋がっている状況だ。
予想外の展開に困惑し、何とも照れくさかった。
「ホントごめんなさい」
「・・・いいよ・・・もう」
すまなげに言う女の上目遣いの目は大きく人懐っこい。
十分に誠意を感じていたオレはシャツのことは諦めた。
女は体を起こしてオレの顔をしばらく直視したあと立ち上がり
収納されたテーブルをつかんでキーボードを引き出した。
化粧の匂いが広がる空間で、オレの思考は低下していく。