続・聖なる日
そう、私はイラついていた。その濁った感情は日を追うごとに強くなり、私の心の中を侵食していく。睡眠という行為がほとんど出来なくなり、授業でノートを取るのも他人と会話するのも困難な状態になっていった。
私にとっては過去の存在であった篠原圭介。でも、彼は今でも私と同じ世界で生きていて、高校生として普通に青春している。それはごく当たり前のこと。意外でも何でもない。なのに、なぜ私はこんなにも苦しんでいるのか。その理不尽さが更に私をイラつかせる。
このままバレンタインデーになったら、私の心は崩壊してしまうのではないだろうか。およそ馬鹿げた考えが頭の中をグルグルと回って吐き気が止まらない。
耐え切れなくなった私はクラスメイトの加納睦美に相談してしまった。普段なら絶対にこんな恥ずかしい行為は出来ない。それほどまでに私の心は疲弊していたのだ。
加納さんは私の取り留めのない長めの話を黙って聞いて、すぐには答えずにジッと考え込んでいた。いつも彼女は他人の恋愛話を真剣に聞いて考えてくれる。だから、クラスの女子達は彼女に相談するのだ。
「……慶子の気持ちがどういう風に変化していったのかは分からないけどさ、今の慶子はやっぱり恋をしているんだと思う」
「でも……私は今の彼のことなんて知らないんだよ?」
「うん。慶子が恋しているのは今の彼じゃなくて、中学時代の彼。自分の事を好きでいてくれた時のね。だから、酷い言い方をすれば、この恋は始まった時点で終わっているんだよ」
「……」
「正直言って、これが本当に恋と呼べるのかも分からない。思い出は時間が経つにつれて美化されていくからね。慶子が心に描いている彼と中学時代の彼はたぶん完全には重ならないと思う」
「そう……かもね」
「でもさ、彼はべつに死んじゃったわけでもなく、遠くに行っちゃったわけでもない。過去に対する恋を現実の恋にするチャンスは残っている。まだ彼はフリーの状態らしいし、ちょうどバレンタインデーという絶好のタイミングが間近に迫っているんだよ」
「……今さら彼に告白しろってこと?」
「たぶん告白しても後悔することになる可能性が高いと思う。でも、告白しなくても後悔はするよね」
「……」