才能がない!
「覗きではなく男のロマンと言え、似非アドベンチャー。挑戦は受けて立ーつ」
べー、と子供のようにファレスと舌を出し合う。
なんて嫌なロマンだとは思ったけど、ロマンなんて人によって違うのはもう実体験済み。だんっ、と足を鳴らしてこぶしを作る。
「似非と言わば言え。定義なんて勝てば官軍。15回程度の落選が何だ、編集者や読者との感性の違いが何だ。あたしは負けない、ネバーネバーギブアップっ!」
「ネバーの数が足りてませんことよ、ミノワ。あと13回」
「勢い込んだところに鋭い突っ込みをありがとう、エナ」
でも今ちょっと殺意を覚えたぞ。
「……そうだね。うん、俺もそうだと思うよ」
ネバーギブアップ、と口の中だけで繰り返して、シイが私を見上げた。穏やかさんのゆったりと染み込むような声音で、綴るのは同意。色んな意味が詰まってたように聞こえたのは私の気のせいじゃないと思う。
「踏まれても蹴られても目指すものを変えられない。好きなものを諦められない。……損な性分だよねぇ」
だってふわりと笑うシイの目はすごく暖かい。
悔しいから絶対言ってやらないけれど、こういうときいつも痛いほどシイが精霊に好かれている理由が分かる気がする。からかうけれど傷つけるほどひどいことは絶対に言わなくて、優しい。
「……お互い様って言っていい?」
ジロッと睨みつけてやるのは当然皆。エナが勝ち気に顎をそらす。
くそう、何かものすごく馬鹿馬鹿しくて嬉しいぞ。
分かってるんだ。皆同じ。才能がないんだよ。
笑えるくらい私達はこの世から一番愛する物の才能に見放されてる。
永遠に続くだろうこの片恋は、恋患いなんぞをしてみても欠片も望みを見せてくれません。どんな男でも、いやユニコーンですらここまで乙女に尽くされたらなびくぞ普通。
だけど片恋だからこそ、私達はこのままでは終われない。終わらせない。
「よーっし、こうなったら遊びに行くぞっ。行きたい人この指とまれ!」
わあっと騒ぎだした私達に、廊下を行くクラスメイトがまたかという顔をした。
いいんだ、いつものことで。冷たい世間にも皮肉な運命にも負けやしないぜ。開き直って笑顔で手を振ってやる。
―――好きだって事も立派な才能よね。
いつか胸を張ってそう言える、その日まで。