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才能がない!

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 急にファレスの手から離れたことにより目が覚めたのか、はたまた眠りの魔法の持続時間が切れたのか、のたりと転がり出て来た蜂の羽が微かに動いた。ぶぅぅうん、と飛び立つ音がする。
「ぎゃああーっ、こんなもん持ってくるなーっっ」
 パニック。
 つられて起き出す蜂、蜂、蜂。
 なす術もなくおたおたと頭を庇う私。窓の桟から飛び降りて逃げるファレス。驚きのあまりぼうっと表情も無く突っ立っているカーザと、それを抱き寄せて庇うシイ。きゃあきゃあと蜂を避けながらも、エナはファレスを蹴飛ばすのは忘れなかった。……さすがだ。
「何だってそんなことしたんですのっ、このお馬鹿ファレス!」
「だって習ったばかりの魔法って使いたくならねえっ?」
「使い方によるわ馬鹿ーっ!」
「騒いで蜂を興奮させてないで、窓の外に巣を捨てるんだ、ミノワ。できれば木の側にしてやってくれ」
 一人冷静なシイの言葉で私はようやく自分がまだ巣を持ってたことを思い出した。何たる間抜け。慌てて外に向かって投げる。
 途端、ぶおっ、と蜂を外に押し出すように風が吹いた。精霊魔法だ。
「しししし閉めて閉めて早くっ」
 ばたばたと全部の窓を閉め終わった後で、私はシイを振り返った。軽く片手を挙げて感謝のジェスチャー。
「助力感謝、シイ」
「礼なら風精に。……もう大丈夫だからな、カーザ」
 この建物内で見事狭い空間を嫌う風の精霊を呼んで見せた彼は、別に得意になるでもなく、ただ心配そうにカーザの乱れた髪を直してやっている。
 カーザはどこを見ているか分からない目をしてされるがままだ。こういう状態を世間では精霊にあたったと言う。感受性の強い子供なんかがなりやすいものなのだが、カーザのような体質だとならずには済まないくらいもろに影響を受けてしまうらしい。一時的なものだし、シイがついてるから心配は要らないけど。
 ……でもやっぱり気分悪かったりするんだろうな。悪いのはファレスだけど、何か申し訳ない気分。
 逃げ回ったせいで倒れた机と椅子を直す傍ら、私もファレスを蹴飛ばしてやった。
「あっ、てめ、暴力反対っ」
「うるさい馬鹿。蜂の巣千切ってくるな」
「眠りの魔法が効いたかどうか触ってたら、ぶっつり千切れちまったんだよ。で、しょーがねぇから持って来たという」
「その辺においといてやる方が親切じゃないか? この不器用者」
「そいつぁNGワードだぞ。……ちぇっ、栄えある初の成功例だったのによー」
 だからありがたがれとでも言うのかこいつは。
「不器用って言われたくなかったら、机くらいもっと真っすぐ並べなさいよ」
「細かすぎっぞミノワ。早く元に戻してやろうっつーオレの心がわかんねぇの?」
 確かに言うだけあって、机を並べる速度はエナや私よりもファレスの方が早いけど、どうしてこうなるのかと問い詰めたくなるくらいガタガタな上に斜めになってるのが難点だ。しょうがないから私がその後ろをついて微調整して行くことにする。
 鴨の親子だわ、と窓際からエナがぼそりと呟いた。何だそれは。
「ってか、あれだよな。今の、エナに呪霊魔法でなんとかしてもらうっつーのが一番早かったんと違うか?」
 最後の椅子を起こした所でいきなり妙なことを言い出したのは、当然ファレス。くりーっとエナを振り向いて、椅子に反対向きに座って。
 エナは呆れ切った顔で、ふんと鼻で笑った。
「ファレス、貴方、呪霊魔法を誤解してますわ。あの魔法は準備も何もなくて使える魔法ではありませんことよ。貴方こそ眠りの魔法をもう一度かければよろしかったのではなくて?」
「授業で作った眠り粉切れちまったんだからしゃーねーじゃん。ミノワの神霊魔法は?」
「あの状態で蜂以外に全神経集中させろって言うわけ?」
 神霊魔法は集中力が命なんだぞ。
「こういうとき精霊魔法は楽そうだよね。精霊の住処は大気中だって言うし。シイ、便利よさそーでいいなー」
「……まあ、ね。これだけ魔法剣の方も使えたらなぁとか思うけど。なかなか厳しいね」
 へろっと流してもらえるようにガキっぽく羨ましがって見せたのに、歯切れの悪いシイの返事。
 そういえばシイは魔剣士志望だったっけ。
「あ、ごめん。気になった? 別にシイに魔剣士目指すのやめればとか言ってる訳じゃないから。その辺誤解しないでよね」
「そうそう」
 こくこくと頷いて、ファレスも同意してくれてると思いきや、
「例え剣士としては人並み以下でも続けることに意義ぐぁ……っ」
 やっぱり奴は油断を許さない性質だった。背中を思いっきりヒールで蹴っ飛ばしてやめさせたエナに思わず拍手を送る。ナイスだエナ。
 空気を変えるように、こほん、と小さく咳払いをしてから、エナはシイに真っすぐな瞳を向けた。
「そんなこと、厳しくて当然じゃなくて? シイ。わたくし達魔法学園生は、神が元よりこの世界に授けられし力以上の物を求めて、神の御言葉を道しるべに深淵のことわりを手にし、魔法という現象をこの世界に顕現しようとしているのですもの。これも神のお与えになられた試練。乗り越えて更なる成長を遂げることが人間として当然の義務であり、何より神のお望みになられていることですわ」
 教科書より一部抜粋。プラス、神書。
 時折エナの言葉は信心深さにあふれてて驚くのよね。育ちがいいというか何というか。
 でも言ってることはつまり、力が欲しけりゃ苦労するのは当たり前、ってことだ。努力しないで手に入れられるほど甘くない。だってそれは夢だから。
「試練かどうかはあたしは知らないけどさ。それでも、できなくったって好きなもんは好きだし、やめるのはやめたくなってからで十分じゃない? 少なくともあたしは、誰がどんな評価を下そうが、やめたくないものはやめないけど」
「……15回落選しても?」
 ようやく気が付いたらしいカーザが私を見ていた。
「何でぇ、カーザ、心配でもしてんのか? こいつなら落選の50回や100回くらいじゃやめねぇって」
 平気平気、と笑いながらフォローを入れてるつもりのファレス。
 確かにかなりへこむしめげるだろうがやめてはない自信はあるけど、50回や100回ってのはあんまりにも大ざっぱ過ぎないか。
 きっとこいつのこういうところが細かい仕事のできない理由なんだろうなーと変に納得しながらも、私はふふんとせせら笑って見せた。
「人のこと言えるの、不器用盗賊志望。悔しかったらカギ開けてみな」
「うるせー、そのうちてめぇのロッカーの鍵開けてさらし者にしてやるから覚悟しろ」
「あっ、何てことを言うかこの変質者。乙女のロッカーには秘密が山のように詰まってるんだぞ。血とか肉片とか現場写真とか出来損なったスライムとかっ」
 言った瞬間、空気がざあっと引いたような気がした。
「そんな下劣なもの、普通は入ってませんわよ」
「写真はまあ種類さえ違えばありだと思うけどねぇ」
「……ミノワ、すごい」
「てめぇのロッカー、マジにろくなもん入ってねぇなぁ……」
 カルテットでぐっさり。
 今のは効いたぜ……。
「ええい、みんなして突っ込むなよ、しみじみ口調で言うなーあっ。そんなに言うなら本当に開けて確かめて見ろ、覗き男っ」
 びしっとファレスを指して挑戦宣言。やけとか言うな。
作品名:才能がない! 作家名:睦月真