ばーさーかー・ぷりんせす!第4話
4.
ヴェニマールの宿屋で。
「うえっ、気持ちわり。血だかなんだか付いてやがら。」
「先程のご活躍、お見事でした。感謝しますぞ、アジロ殿。ここヴェニマールは
水も豊富で温泉もあるとか。姫…フレアお嬢様の依頼に応じた報酬はお支払いいた
しますが、まずはお体を清めてまいられなさい。」
天から湧いた破天荒な男にギャリソンは動ずることなく契約をした。マリアが呼び
出した以上、元の世界に戻す方法も探す必要がある。
マリア本人も実は召還が成功しているのはナベシマのみ。いつもほっておくと帰っ
てしまうため、返し方が判らないという。
「あ・でも召還の最中はいつもより頭が熱かったなー」
とは言っているが。
もっとも、足代本人はそんなことはおかまいなしだった。宿屋を見回し、こねくり、
花瓶の花をそのまま食べたりしていた。ルーシーやギャリソン、別世界の雰囲気に
ももう馴染んでいる。
* * * * *
「アジロ兄さまー、きゃいきゃい」
ゾンビに助けられてから、急遽足代ファンとなったマリア。彼女が聞いたところで
は…
彼はまだ十八歳、姫と同い年。ここよりもっと文明が進んだ世界で、基本的に王
は執政をせず、庶民の代表が取り仕切っているという。
「デタラメですわ。あんな原始人がそんな所にいたなんて。貴族でもないのに働か
ず、勉強だけの暮らし? しかも王制が取られていない? 誰が命懸けで国民を守
るというのです?」
フロリーナは憤懣やるかたない、というところである。来訪者の何もかもが気に入
らないようだ。
(ルーシーの予言…魔族なみの力を持つと言ってましたわ・あの男、きっと悪魔の
使いに違いありませんわ!)
もう一人彼を快く思わない者がいた。
「あんのやろ、人が寝てるスキにカバン持ちの仕事を奪いやがって。許せんっ、靴
に画鋲入れてやる。それとも靴を隠してやろうか、水虫うつしてやろか」
…大きなことを考えられないラッキーであった。
* * * * *
月も雲に隠れた深夜。足代は公営の浴場で汗を流し、制服も洗った帰りである。先
の戦いでボロボロだが、ゾンビの汚れた血や体液といったものは見当たらない。通常
魔界の汚れを落とすには相当の洗濯か聖水による浄化が必要なのだが。
「お待ちなさい」
暗がりから声が聞こえる。
「なんだい? おでこ姉ちゃん。せっかく風呂上がりでいい気分なのに、よ」
「…」
彼女は答えず、代わりにドラ猫のような声が響く。
「ぎひひ、はじめまして~セバスちゃんだよー」
人気も無い町外れ。フロリーナは魔凱を装着し、野蛮人と対峙していた。
作品名:ばーさーかー・ぷりんせす!第4話 作家名:JIN