小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

INDEX|43ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

 曲は祖母の聴きたがっていた“ホワイト・クリスマス”。慎太郎は“英語”に集中しないといけないので、ギターは航だけだ。イントロを聴いている祖母の顔が自然とほころんでいるのが分かる。
  
  ♪ I’m dreaming of ……
  
 先程までの高く響く航の声とは正反対に、慎太郎の声が低く静かに会館に響いてゆく。
  
  ♪ Just like the ones ……
  
 そーっと入り口の扉が開き、小田嶋氏と高橋氏の姿が現れた。
  
  ♪ Where the treetops glisten ……
  
 驚いて、歌いながら右を見る慎太郎と左を見る航の目が合う。
  
  ♪ I’m dreaming of ……
  
 それでも、聴いてくれている人達の笑顔が嬉しくて、視線で小さくうなずき合い、曲へと戻る二人。
  
  ♪ …… Christmases be white
  
 自治会館に拍手が起こる。ギター一本と慎太郎の歌声だけの“ホワイト・クリスマス”は、正に“大人のクリスマス”だった。最前列の右端に座っている若林氏が満足気に手を叩いている。とりあえずは、一安心だ。
「えっと……。あんまり大人過ぎると、僕らが疲れてしまうので……」
 慎太郎の言葉に、場内が苦笑する。
「次の曲はもう少し僕らに近い曲を……。CMで良く耳にするのでご存知の方も多いと思います。“Silent Night”」
  
  ♪ ほら 雨が雪に変わる
  
 吟遊の木立で最後に……いや、最後から二番目に歌った曲。
  
  ♪ 街中に流れる クリスマスソング
  
 ふたつのギターの音に導かれるように、航の声が響く。
  
  ♪ だから そっと 耳元で囁く
  
 子供向けの曲の時と同じ声の筈なのに、随分と切なく聴こえるその声に若い母親達が耳を傾ける。2コーラス目に入り、ギターの音に紛れるように囁くような声で慎太郎の声が航の声を追い駆けると、あちらこちらで小さく感嘆の声。歌っている二人は気付きもせずに演奏を続けている。
  
  ♪ ありったけのボクの気持ち I Love You …
                   (I Love You…)
  
 満足そうな笑みと共に、拍手が大きくなっていく。その拍手に席を立ってペコリとお辞儀をする二人。そして、最後の曲を告げる。
「次の曲で最後になります。えっと、歌はなくて、曲だけなんですけど。少し前の映画音楽なので、ご存知の方は少ないかもしれませんが、とっても可愛くてクリスマスにピッタリの曲だと思います。“ワルツ”」
 慎太郎のギターが三拍子のリズムを刻み、それに乗って航のギターが旋律を奏でる。原曲のピアノコンチェルト風とは大きくかけ離れてしまうが、それを知る人もそんなにいる訳ではないし、そこまで明確に憶えている人がいる訳でもないので、そこはスルーだ。
 ふと顔を上げると、まるで映画のヒロインのように踊るかの如く身体を揺らしている航の祖母。相手は“ステキな子爵さま”だろうか? 航が懸命に笑いをこらえている。そんな航が慎太郎に目配せ。最前列の右端を見ろとばかりに視線を動かす。少し驚いた顔の夫人に若林氏が何やら耳打ち。そして、その手に何かを握らせた。
 ちょうど曲が終わり、観客が拍手をしようとしたその時、
「まぁ!!」
 夫人の声が響いた。開かれたそのてのひらには黄緑の宝石がちりばめられた上品な指輪。
「……何がいいか分からなくて……」
 そう言いながら、耳まで赤くなった若林氏が夫人に微笑む。そんな老夫婦を見ていた航が慎太郎にそっと耳打ち、慎太郎が頷いた。
「店の人に相談したら、“誕生石がいいだろう”と言われてな……」
 若林氏の言葉を邪魔しないよう、小さな音で航が曲を弾き始め、それに合わせて小さな声で慎太郎が歌いだす。
  
  ♪ いつも夢ばかり追いかけていた
  
「何かきっかけがないとなかなか言えんもんだな……」
 黄緑の宝石は“ぺリドット”。八月の誕生石だ。
  
  ♪ 君がいる事が 当たり前だと思っていた
  
 指輪を夫人の手からつまみ上げ、
  
  ♪ 見上げる空も 見つめる明日も
  
 そのまま夫人の左手をそっと持ち上げる。
  
  ♪ つないだ手 二度と離したりしないから
  
 夫人の薬指に納まった黄緑の宝石(いし)がキラキラと輝く。
  
  ♪ 明日へと続く道
  
「……あなた……」
「その……なんだ……」
  
  ♪ 君とふたり 歩いていくと 誓うよ……
  
「……ありがとう……」
「……ありがとう……」
  
 二人の歌がまるで“真珠婚式”の誓いのように聴こえる中、微笑み合う若林夫妻に拍手が送られるのだった。
  

 拍手に送られ、三十分ちょっとのミニライブが終わったのは二時を少し過ぎた頃だった。
「俺は“雑用”かよ!?」
 の高橋氏の言葉を聞いて笑う慎太郎と航。
 ただのクリスマス会なら小田嶋氏ひとりで時間を潰すつもりだったのだが、直前に、慎太郎と航がミニライブを行うと知って急いで高橋氏に連絡したのだ。返事は勿論、
『行くよっ!!』
 仕事先が近かったのも幸いし、ライブに間に合う事となった。
「で、また戻らないといけないから……」
 と隣にいる小田嶋氏を見る。
「送ってけよ!」
 来る時に小田嶋氏の迎えで来たのだ、戻る“足”がない。
「でも、小田嶋さん、午後のライブ……」
「いつも二時頃からですよね?」
 心配する慎太郎と航。
「今日は“止むを得ず”って事で、時間をずらすよ」
 “来てくれる人達の顔ぶれが変わって楽しいかもね”と小田嶋氏が笑った。
「じゃ、僕はこいつを送ってくるから……」
 休憩時間を急遽変更してやって来た高橋氏に、雑談の時間はない。急かす高橋氏と急かされる小田嶋氏。あいさつもそこそこに二人は慌てて自治会館を後にした、……と入れ替わりに航の祖母が木綿花と並んでやって来た。
「慎太郎くん、ステキだったわ」
 祖母がニコニコと微笑む横で、
「最後の曲って……即興?」
 木綿花が小声で訊ねる。今朝渡したばかりの楽譜とCDの曲なのだ。まさか、演奏するとは思っていなかった。
「航が、“ワンコーラスでええから、歌える?”って……」
 あの時の耳打ちは、これ。
「なんか、BGMがあった方がええかなって思てん」
 ギター一本と囁くような歌声。まさにピッタリのBGMだった。
「ちゃんとしたのは、これから練習して来年最初のライブで……」
「慎太郎くん、航くん!」
 今度は若林氏である。ペコリと頭を下げる二人の手を取り、
「今日は、本当にありがとう!!」
 満面の笑みでその手を強く握り締める。そんな若林氏の一歩後ろには夫人の姿。その左手にはぺリドットの指輪が輝いている。
「あら、堀越先生?」
 ふと、夫人が航の祖母に気付いた。
「あら!」
 と祖母。
「お招きに預って来させていただきましたわ」
 頭を下げる祖母を見て、若林夫人が祖母の手芸教室の生徒である事とクリスマス会の招待状を手渡した人だと分かり、祖母と一緒に航達も頭を下げる。
「お知り合い、ですか?」
 不意に祖母に質問する若林氏に、夫人が、