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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 笑顔と一緒に拍手が起こり、安心したように顔を見合わせて二人が微笑む。ペコリと頭を下げて、戻して、一番後ろに驚き顔の石田を発見! 椅子に腰掛けている航が、慎太郎に見えるように座り直し、その仕草に慎太郎も友人の存在に気付いた。
「ありがとうございます」
 再び頭を下げて、慎太郎が話し出す。
「えっと……」
 さっき終わりを告げただけに、バツが悪そうに頭を掻く慎太郎。
「高校生活、色々ありまして……。もう一曲だけ、お付き合いしていただいてもいいですか?」
 その言葉に、観客達が笑いながら拍手を送った。
「ちょっと古くて、その上クリスマスには何の関係もないんですけど……」
 相変わらず、人前で話すとなるとなかなか言葉が出てこない慎太郎が、懸命に浮かんだ単語を組立てる。
「俺達にできる事って、なかなか思い浮かばなくて……。だから……、えーと……。……聴いて下さい。“未来へのパスポート”」
  
  ♪ 諦めないで きっと 大丈夫
  
 サビから始まる、春にヒットした曲。
  
  ♪ その一歩は 未来への パスポート

 春の選抜甲子園の行進曲にも選ばれた曲だ。
  
  ♪ 自分で決めてしまう “限界”
  
 聴いていた石田の眉がピクリと動いた。
  
  ♪ “後悔”よりも “当たって砕けろ!”
  
 演奏中の二人と石田の目が合う。
  
  ♪ どうせ流すなら 悔いのない涙
  
 一瞬伏せた目を二人に戻した石田が、親指を立てた。
  
  ♪ “今”は“この時(いま)”しかないんだから
  
 その様子に、二人が笑顔で微笑み、
  
  ♪ 踏み出そう 未来への パスポート
  
 通じた想いに、今度は三人でニッと笑い合う。
  
  ♪ 自分の為の 最初の一歩
  
 周りの拍手に頭を下げる二人。その拍手の輪の一番外側で、石田が同じ様に頭を下げていた。
  
  
「あれは、プログラム外なわけ?」
 ライブが終わり、吟遊の木立の一番広い歩道へと三人で歩く。突然始まったラストの一曲に石田が二人を“ん?”と見比べて問い掛けた。
「んにゃ。内(ない)」
 笑って首を振る航。
「“内”って。慌てて継ぎ足した感じだったじゃん」
 その言葉に二人が顔を見合わせて笑った。
「何だよ!?」
「えーやん、別に」
「“内”っちゃ“内”なんだよ」
 そして三人揃って、ベンチに腰掛ける。手には、若林氏から貰った缶ジュース。今日はクリスマス会の準備があるからと、氏は三人にジュースを手渡すと帰ってしまった。
「連休明け、練習?」
 ホットミルクティーを一口飲んで、航が右隣の石田を覗き込むように見る。
「うん。三十日まで練習。お前等は? 来週もやんの?」
「俺、連休明けから京都」
 “実家に帰んねん。”と航が当たり前のように言った。
「俺は、新潟」
「「新潟!?」」
 航と石田が驚いて慎太郎を見る。
「なんで“新潟”なん!?」
 詰め寄る航に、石田が“そーそー!”と頷きながら同じ様に詰め寄る。
「繋がりが見付からねー!」
「母方の実家なんだよ」
「あ、そーなんや……」
「って、いつも帰ってたっけ?」
「五年ぶりかな……」
 “面倒くせぇわー”と慎太郎が缶コーヒーを飲み干した。
「“面倒”って……」
 何か言いた気な航。その頭にポンと手を置いて、
「って思ってずっと行かなかったんだよ。でも、お前見てると、祖母さんも悪くねーなって思ってさ。ついでに、高校の事とかライブの事とか話しておこうかな……って」
 慎太郎が照れくさそうに笑った。
「ちなみに、祖父さんは死んでっから!」
「いいなぁ。お前等、帰る所があって……」
「石田、無いの?」
「俺、地元だもん。両親とも祖父さん達近いから、いつも日帰り。……でさ……」
 缶ジュースを握り締め、石田が溜息をつく。
「新年早々、いい報告をしたくてさ、張り切ってた訳よ」
 どうやら、部活の事らしい。
「俺の両親、長男×長女のカップルで、俺、どっちの祖父さん達にとっても初孫なのよ。だからさ……」
 高校に入って、一年生でレギュラー。祖父母達の喜ぶ顔が見たかったのだ。
「でも、ちょっと焦り過ぎてたな……」
 何回か試合に出させて貰った事が自信から傲慢になりかけていた。それが、自分自身のプレーを単一化してしまって、空回りしていたのだ。
「まだまだ“小さい”わー、俺……」
 スッキリしたらしく、ベンチに腰掛けたまま石田が大きく背伸び。
「まだまだ“子供”だよな、俺等……」
 認めたくないけど……、とばかりに笑う慎太郎の隣で、
「そやから、好きな事出来んねんで」
 航が悪戯そうに笑った。
「午後からはクリスマス会だっけ?」
 一通り笑い終わって、石田が二人に問い掛ける。
「うん。しばらくは公園ウロチョロして、それから自治会館」
「お前は?」
 今日は練習は休みの筈である。
「とりあえず、帰るわ。んで……」
 と、航がこちらを向いている石田の肩をチョンチョンと突付いた。
「何?」
 首を傾げる石田に航が石田の背後をそっと指差す。
『ほら、ミカ!』『チャンスよ。チャンス!』『……でも……』
 例の女子三人組である。
「こいつ?」
 気付いた航が、石田を指差した。
「バスケ部の方ですよね?」
 一人が問い掛け、石田が頷く。
「先々週の海南高との試合に出てましたよね?」
 もう一人が問い掛け、石田が再び頷く。
『ほら、ミカったら!』『間違いないわよ!』
 二人に押し出されて、“ミカ”と呼ばれていた少女が石田の前に立った。
「SF(スモールフォワード)……の、石田さん?」
 少女が震える声で訊いてくる。
「え、えぇ。はい」
 ポジションはおろか名前まで知られている事が嬉しいやら、びっくりやら……。頬を染めて声を震わせる少女の前で、真っ赤になったまま石田が頭を掻く。
「ほな、ここは、若い二人に任せて……」
 小さな声で航がクスクスと笑い、残った女子二人と頷き合いつつ、四人はそっとその場を離れるのだった。
  ――――――――――――
「クリスマス会、歌いに来るんですよね?」
 二人を残して歩く歩道で、以前プードルを連れていた少女が訊いてきた。
「私、あそこの団地に住んでるんです。後で行きますね」
 頷いた慎太郎と航に、笑顔で続ける。
「私も!」
 もう一人が自分を指差して自己主張。
「って言っても、私はユカリに招待してもらったんだけど……」
 と、プードルの少女を指して舌をペロリと出す。
「さっきのあれは?」
 遥か後ろにいる石田とミカを背中越しに親指で指差して慎太郎が首を傾げた。
「あれは、ミカが……ねぇ」
「夏の大会で見掛けてから……。“一目惚れ”ってやつ?」
 夏の大会で、SFの選手が試合中に足を捻り、その代わりに石田がSFに入った。高い守備能力が求められるポジションで、弱冠一年生の石田は見事にその役割を果たし、その上試合終盤の石田のスリーポイントシュートが駄目押しとなって、この試合は勝利を修めた。
 ミカの兄もバスケをやっており、この時の石田のプレーをそれは誉めていたらしい。それ以来、ストーカーにならない程度に石田の事を調べたと言うから驚きである。