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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 “ねぇ、飯島さん?”とオネエ口調で問い掛ける石田に、
「日本国内だけで、生きて行くのよ、アタシ達!」
 “そうよね、石田さん?”と慎太郎が返す。そんな二人を見て、
「壊れとるなー」
 ケケケッと航が笑った。
「シンタロ。今日、どうする?」
 試験最終日の今日、午後からは暇である。
「なんだ。まだ、続いてんの?」
 “俺、午後から部活だよ”と溜息をつきながら、石田がギターの手真似を向ける。
「“まだ”とは失礼な奴(やっ)ちゃな!」
 航くん、憤慨。
「悪ぃ、悪ぃ!」
 両手を合わせて、石田が航を拝みこむ。
「でもさ、楽しそうだよな、お前等」
「楽しいもん♪ な?」
「だな……」
 航のフリに笑う慎太郎を見て、石田が大袈裟に驚いてみせる。
「欧米人かっ!?」
 ケラケラと笑う航と慎太郎。
「そんなに面白楽しいもん?」
 体育会系の石田が二人の顔を見比べながら首を傾げる。
「割と、な」
 慎太郎の答えに、
「“割と”って……」
 航が口を尖らせ、
「ふーん……」
 石田が慎太郎を凝視する。
 こう見えて、慎太郎とは“ご近所さん”なのだ。当たり前だが、幼稚園の頃から知っている。幼稚園の頃はともかく、慎太郎と言えば……。
「飯島って、アガリ症じゃなかったっけ?」
 授業で指される程度なら大丈夫なのだが、学芸会などは“その他大勢”の役でないとどうにもならなかったと、石田は記憶している。
「それを克服する意味も含めて始めたんだけどさ」
 “不思議となんとかなってる”と顔をしかめてみせる。
「二人で並んでギター弾いて、音と声とがいい感じに響くと……」
「めっちゃえぇ気持ちやねん!」
 慎太郎のセリフを取る航。その様子に、石田が中学の卒業式の出来事を思い出す。
「あん時はビックリしたよなー。最初は冗談かと思ったもん」
「あれは、木綿花にハメられたんだよ」
「木綿花ちゃんと先生だけの予定やったんやから」
 二人して“ゆでダコ”になったのも、今や良い思い出だ。
「……なぁ……」
 荷物をカバンに詰め終わった石田が、席を立ち際、二人を振り返った。
「ん?」
 揃って石田を見上げる二人。
「ストリートライブ、さ。一回、見に行ってもいいか?」
「なんだよ、行き成り?」
 冗談だと思っている慎太郎がクスクス笑った。
「今月の三連休、部活、休みなんだわ……」
 言いながら、フッと溜息をつく。
「……毎週土曜日。朝八時から、森の葉公園の吟遊の木立でやってる」
「航!?」
 あっさりと答えた航に、慎太郎が驚いた。知人に見られるのはまだ抵抗があると思っていたからだ。
「行って……いいのか?」
 慎太郎と同じ思いだったのか、言い出した石田本人も驚く。
「その代わり、後ろの方で聴いてな。前に石田の顔があると……ちょっとやり難(にく)いさかい」
「お、おうっ!」
 見に行く石田が妙に恥かしそうに頷き、教室の前の時計を見る。
「あ! 部活!! 時間、ヤバッ!!」
 ドタバタと石田、退場。
「……いいのか?」
 いつの間にか二人きりになった教室で、慎太郎が航の脇を突付いた。
「んー……。なんか、訳アリっぽいかなって……」
 石田の出て行ったドアを見て、航が呟く。
「そーいや、マジっぽかったな……」
「やろ?」
「ちょっとバスケ部覗いてくか?」
 石田はバスケット部である。
「そーやな」
 最後の二人が席を立ち、教室はやっと空(から)になるのだった。

  
 その日の午後。堀越宅。
「……大丈夫、シンタロ?」
 クリスマス会当日の曲の練習である。悪戦苦闘の“ホワイト・クリスマス”に加え、公園でのライブにもう一曲追加が決まった。
 放課後、こっそり見に行った体育館でのバスケ部の練習。三年生が引退し、その穴を二年生と一年生で埋めるのは当たり前の事だが、その一年生枠に石田が有力候補のようだった。
「でもな……」
 あの様子からすると、かなりのプレッシャーなのだろうと二人は思ったのだ。かと言って、ライブ見学をOKするくらいしか出来ない。だったら、どうせなら、見に来てくれた時に何か出来るかもしれないじゃないか!
「何かって?」
 慎太郎の問いに、航が答える。
「なんか、励ますような事……かな?」
「“励ます”ったって、俺等、歌ってるだけじゃん?」
 そして二人で考えた結果、クリスマス用に組んだ当日の演奏曲に一曲、そっと背中を押せるような曲を追加する事となったのだ。
 大変なのは慎太郎である。やっとなんとか“ホワイト・クリスマス”を歌えるようになったばかりで、さぁ、これから歌いこみ!! と思っていた矢先の一曲追加なのだ。
「大丈夫も何も、やるしかないだろ?」
 “お前が振ったクセに!”と慎太郎が笑いながら航を責める。
「……ごめん……」
 項垂れる航。その頭にコツンと軽くこぶしが当たった。
「謝ってんじゃねーよ!」
 明日と次の週は通常の演奏となる。それも軽く通して、四週目のクリスマス用のライブの曲とクリスマス会用の曲を練習しておきたい。学期末テストが終わったのに、覚える事は山のように残っている。
「うっし!!」
 気合一声! 慎太郎がギターを手に取り、航が慌てて後を追う。
 いつもと逆の午後が始まった。

  
 十二月も期末テストが終わると授業らしい授業がないだけに、練習時間には困らなかった。お陰で、不安だらけだった“ホワイト・クリスマス”もなんとか披露できる程度になったし、いつもより多い曲数も強引に頭に叩き込めた。
 そして、
「♪I’m dreaming of ……」
 課題の英語曲がすっかり習慣付いてしまった慎太郎が、ギターと折りたたんだ椅子を持って玄関のドアを開けた。
「♪Just like the ones ……」
「慎太郎っ!!」
 歌いながら階段を降りようとした慎太郎の背中に隣のドアからの木綿花の声がぶつかり、思わず振り返る。
「あ!!」
 木綿花の顔を見て、慎太郎が約束を思い出す。
「やっぱり忘れてたわね!」
「やっぱりって、お前……。……ま、そーなんだけどさ……」
 バツが悪そうに頭を掻く。
「でも、航には、ちゃんと言っておいたぞ!」
 そう。言うには言ったが、向こうが覚えているかどうかは航次第だ。
「もう!」
 やや怒りながらも、木綿花がなにやら差し出した。
「な、何?」
 驚きつつも手を差し出し、それを受け取る。小さなトートバッグがふたつ。青のチェックと黄色のチェック。
「ライブやって、そのままクリスマス会に行くんでしょ?」
「そーだけど……」
「だから、お弁当!」
「おべ……。えっ!?」
 手荷物と木綿花を交互に見て、慎太郎が驚く。
「クリスマスプレゼント……の代わりよ。早起きして作ったんだから、ちゃんと食べなさいよ!」
 言われて見れば、木綿花はエプロン姿だったりする。
「ブルーのが慎太郎。黄色いのが航くん」
「決まってんの?」
「それぞれの苦手な物を抜いてあるのよ」
 木綿花の言葉を聞いて、“そりゃどうも”と頭を下げる。
「それと……」
 片手でドアを押さえながら玄関の中に手を伸ばし、クリアファイルを掴んで慎太郎に渡す。
「一昨日頼まれたコピー」