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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 自分達位のメンツは外で友達と騒ぐのが定番だろうし……、と慎太郎。
「そっかぁ……」
 “年寄り”って……言葉選びぃや、と航。
「午前中にストラやって……」
「小田嶋さんとこの見て……」
「昼に戻って来て、飯食ってからまた行く?」
「なんか、面倒っちくない?」
 何度も往復するのは、航自身がちょっとばかり辛いのだ。
「コンビニで弁当買って、公園で食うか?」
「うん!」
 当日の予定が決まったところで、話し合いが曲目へと戻る。
「クリスマスソングって……。ジングルベルとかしか知らん」
 エヘヘと航が頬を掻いた。流行の歌だと、親世代には分かっても小さな子供や年配者には受け入れてもらえないだろう。
「いいじゃん、“ジングルベル”。それと“赤鼻のトナカイ”?」
「はいはいはい」
 掴みは、お子様向けで。
「ボーカル、お前な!」
 慎太郎が航を指差す。
「え?」
「お子ちゃまの歌は、お子ちゃまが歌わなきゃ」
「何やねん!?」
 ムッと膨れる航に、
「俺の声じゃ、低くて怖いだろーよ」
 慎太郎が笑った。
「“聖夜”やのに、“魔王降臨”になってまうもんなー」
「誰が“魔王”だ!?」
 腕を振り上げる慎太郎に、ギターをかざして航が応戦する。
 そこへ、
「あらあら。楽しそうだこと」
 祖母が、再びお茶を持って登場。今度は、肉まん付きだ。
「ジャンボ団地のクリスマス会……だったかしら?」
 地域一の大きな公団団地。通称・ジャンボ団地。
「えぇ。今、何を演奏するか決めてるんですけど」
 流行曲以外のクリスマスソングなんて、殆ど知らない。
「祖母ちゃん、何か知ってる?」
 航が肉まんにかぶり付きながら祖母を見た。参加する年齢層の三分の一は祖母の年代だ。
「そうねぇ……」
 訊ねられた祖母が嬉しそうに考える。
「“ホワイト・クリスマス”なんか、いいんじゃないかしら?」
「ビング・クロスビーの?」
「あら! 慎太郎くん、よく知ってるわね」
 【ビング・クロスビー】
 アメリカの歌手・俳優として、エルヴィス・プレスリーと並んで二十世紀を代表するスターである。自らが主演を務める映画『ホワイト・クリスマス』の主題歌であるこの曲は、全世界で4500万枚を超える超特大ヒット曲となった。
「母の持ってるCDに入ってるんです」
「まぁ!」
「どんな歌?」
 両手を組んで瞳を輝かせる祖母の横で、航が首を傾げる。
「確か……。♪I’m dreaming of a white Christmas ……って……」
「あー! 知ってる、知ってる!」
 頷きながら、航が手元のメモに“ホワイト・クリスマス”を追加。
「ほな、これは、シンタロ担当な」
「俺っ!?」
 “英語よ、これ!!”と抵抗を試みるが、
「そうそう。ビング・クロスビーも慎太郎くんみたいな低い声だったわ」
 との祖母の一言で、
「はい、決定!!」
 航のメモに○印が付いてしまった。
「まっ! 慎太郎くん、これ歌うの?」
 あらあらあら! と瞳のキラキラに笑顔が加算される祖母。
「ねぇねぇ、航ちゃん」
「何、祖母ちゃん?」
 “なんやキモイで”と航が笑う。
「そのクリスマス会、私も行っていいかしら?」
「自治会のやしな……。俺等ではなんとも……」
「大丈夫よ。そこの団地に、私の生徒さんがいらっしゃるの。招待していただくから」
「ほ……」
 “ほな、訊きなや!”との言葉を飲み込み、
「ひょっとして、シンタロの歌、聴きに来るん?」
 ピンと来た言葉を口にする。
「え!?」
 驚く慎太郎の前で、
「今のサワリだけでも、ステキだったもの。是非最後まで聴きたいわ」
 ニコニコと祖母が微笑む。
「えぇ!?」
「シンタロ。諦めーや」
 クスクス笑う航に嬉しそうな祖母の笑顔。それを見た慎太郎が、
「……参ったな……」
 恥かしそうに頭を掻く。
 この後、毎年CMで流れる定番のクリスマスソングを付け加えて、当日の曲目が決定した。
  

「慎太郎っ!!」
 数日後のベランダ越し、隣の伊倉宅から木綿花の元気な声が響いた。
「し・ん・た・ろ・うっ!!」
 呼んでも顔を出さない慎太郎に業を煮やし、はっきりした滑舌でより一層響く木綿花の声。
「近所迷惑だろーが!!」
 思わず応戦に出る慎太郎。
「サッサと出て来ないからよ」
 当然のように木綿花が言い切った。
「で。何だよ?」
 クリスマス会で演奏する曲を練習中の慎太郎としては、早めに切り上げたい。
「ジャンボ団地のクリスマス会に出るんだって?」
「な、なんで知ってんだよ!?」
 突然の問いに驚く。
「ママに聞いたの」
「なんで伯母さんが知ってんの?」
「ママは香澄さんに聞いたんだって」
「なんで母さんが……?」
「香澄さんは航くんのお祖母さんに聞いたんだって」
 それを聞いて、慎太郎が小さく舌打ち。
(忘れてた。三人、仲が良かったんだ……)
「あたしも行くね♪」
「来んな!」
「お祖母さんが“一緒に行きましょう”って誘ってくれたんだもん♪♪」
 これは……断れない。
「ホントは、ママと香澄さんを誘ったんだけど、ママはお友達と映画に行く約束があって、香澄さんは仕事があって、それぞれが断ったのよ。だから、あたしが二人の代わり」
「わざわざご苦労様な事で!」
「当日は、午後からクリスマス会だけ?」
「なんで?」
 また何か企んでいるのかと慎太郎が疑いの目で木綿花を睨む。
「午前中はどうするのかな、って……。公園は行くの?」
「聞いてどうすんだ?」
「行くの?」
「なんなんだよ?」
「行くの?」
「聞いてどうするんだって!」
「行かないの?」
「だから、どうす……」
「い・く・の?」
「行くけど……」
 慎太郎、迫力負け。
「じゃ、朝、ウチに寄ってってよ」
「なんで?」
 訊いた瞬間、閃く。
「まさか! ついてくる……なんて……」
 慎太郎の笑うに笑えない表情を見て、木綿花がクスクスと笑い出した。
「ついてかないわよ! ちょっと渡したい物があるから」
「何?」
「大した物じゃないけど、早めのクリスマスプレゼント♪」
「……何?……」
「ナイショ!」
「なんだよ?」
 内緒にされると、かえって怖い。
「当日のお楽しみ! 航くんにも言っといてね」
 と、ウインクひとつ慎太郎に送ったところで、
“♪♪♪♪♪”
 部屋の中から木綿花の携帯が鳴った。
「あ! ミカからだ! じゃぁね、慎太郎!」
 “じゃぁね”の声と共に身を翻し、戻ってしまう木綿花。
「自分で呼び出しておいて、俺は置いてきぼりかよ!?」
 やれやれと寒空に溜息をついて、慎太郎は練習に戻るのだった。

  
 十二月の二週目は水・木・金と二学期の期末テストだった。クリスマスライブ用の曲の練習の傍ら、本腰は試験勉強へと入れながらなんとか三日間を乗り切った。
「どーやった?」
 金曜日、最後の教科が終わると同時に、航が慎太郎の席まで駆け寄ってくる。
「……聞くなよ……」
 机に突っ伏して答える慎太郎。
「石田は?」
 慎太郎の後ろで、精魂尽き果てている石田に航が笑顔を向ける。
「……試験に体育実技があれば、絶対に高得点なのに……」
 放心状態で、石田が答えた。
「どーして、最後の最後が“英語”なのかしら?」