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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 動き出した車の中、運転席の木綿花父がルームミラー越しに後部座席の航へ話しかけてきた。
「本当はね、朝も送って行こうとしたんだよ。そうしたら、木綿花に止められて……」
 ギターと椅子を運ぶのが見付かってしまったら、折角立てた“計画”の感動が半減してしまう。航には“サプライズ”であって欲しいから、“人”は慎太郎に任せて“物”だけを運んで欲しいと娘に頼まれたのだ。
「……って……」
 木綿花父の口から出た“計画”という言葉に航が反応し、慎太郎をジッと見る。
「んだよ?」
「“計画”って……いつから出来てたん?」
 自分だけが知らさせてなかった事に、拗ねるように訊いてくる航。
「“いつ”ってのはなくて……。ゆるゆると……」
  ――――――――――――
 そう。ただ漠然と考えていた“航の回復が遅れている原因”。小田嶋氏に指摘され、木綿花に相談し、偶然やってきたチャンスに乗っかった。
 その帰り道、丁度戻ってきた時にかかってきた木綿花からのTel。付添って訪れた病院での出来事をそのまま話した。
『OK出たの!?』
 航がギターを取りに行ったのを待っている玄関先で、木綿花の声が携帯から響く。
「ま、出たには出たんだけど……。行き成り長時間はダメだって言われたし。あいつも立ってギター弾くのってムリだと思うんだよな……」
『後ろ向きねー』
 溜息混じりの慎太郎に木綿花が呆れたように返す。
『ね。十五分くらいなら、いいって事?』
 突然の木綿花の問い掛けに、
「……と思うけど?」
 慎太郎が首を傾げた。
『いいとこ、見付かるかもしれない!』
「何だよ?」
『はっきりしたら知らせるわよ。来週まで待ってて! で、これから慎太郎んち?』
「そーだけど」
『帰ったら行くね』
 慎太郎の家は我が家も同然の木綿花。
「何しに?」
『いいもの持ってくんだから、文句は言わない!』
「いいもの?」
『じゃ、後でね!』
 そして、通話が切れた。
 その後、DVDを持った木綿花が、航と練習中の飯島家にやってきて、“応用力”で一騒動。
  ――――――――――――
「あの時、リハビリ室に走ってきたんは、それで遅なったから?」
 航が慎太郎を覗き込む。
「そっ」
「それやったら、ゆーてくれたらええのに……」
 膨れる航。
「言ったって何にもならないじゃん。俺だって、許可は出たもののどうしていいのか分かんなかったんだから」
  ――――――――――――
 二日後の月曜日。学校から帰ってきた木綿花が慎太郎を訪ねてきた。
「“桜林祭”でね、ライブをやるのよ。それに“弟達が演奏するのはダメですか?”って先生に訊いたの」
 先日、航と約束した通り、“応用力”の練習に余念のない慎太郎は上の空である。
「そしたらね、“弟なら、許可しましょう”って」
「……ふーん……。…………て!?」
「なんかね。色々と訊かれたんだけど……」
「い、色々って?」
 余り訊かれたくない“事実”を訊かれて、木綿花がイヤな思いでもしたのかと慎太郎が思いを巡らせる。
「んーとね。“どんな曲をやるのか”とか、“何人でやるのか”とか……」
 その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。
「プログラムもまだ組んでる途中だから、詳しい事が分かったら、また知らせるけど。そっちは大丈夫なの?」
「“大丈夫”って?」
 首を傾げる慎太郎に、
「航くん!」
 “もう!”と木綿花が腕組み。
「十五分間、立ってギター弾けるの?」
「あ! ……椅子、とか借りれるよな?」
「多分。じゃ、手配しとくね」
  ――――――――――――
「え!? あの椅子って、学校のなん?」
「んな訳ねーだろっ!」
 そう言って、座席の後ろの荷物スペースを指す慎太郎。身体を捻って後ろを見る航の目に、さっきまで自分が座っていた椅子が映った。
「もう、“偶然”に感謝! だよ」
  ――――――――――――
 その週の土曜日。航が祖父と病院に行っている時の事だ。病院側からOKが出た事を小田嶋氏に知らせようと、慎太郎は駅四つ向こうの公園へと向かった。実際に歌い始める目処はまだ立たないが、とりあえず、桜林高校の文化祭に飛び入り参加する事になりそうだと、心配してくれている小田嶋氏に伝えたかったのだ。
 公園の【吟遊の木立】に着いた時、ライブは既に始まっていた。人だかりの一番後ろに立って、ライブを見ていると、
「やっぱり、慎太郎くんだ!」
 バイト先の営業所所長……小田嶋氏の親友……が慎太郎の肩を叩いた。
「所長!?」
「あいつに用事?」
「えぇ」
 小田嶋氏を振り返って笑う慎太郎に、
「ライブと航くんの事、だね?」
 所長の高橋氏が頷く。
 ――― 夏休みの間、一度だけ二人で小田嶋氏に会いに来た。ライブは出来ないけれど、二人とも元気だと知らせる為に……。その時に、なんと、小田嶋氏は“ソロ”ではなく、“デュオ”でライブを行っていたのだ。相方は、これまたなんと、この高橋氏。サービス業に携わっている為、滅多にライブには立たないが、実は小田嶋氏、元々“ソロ”ではなく“デュオ”なのだと、この時に聞いた。学生時代に始めたストリートライブ。互いに仕事を持ってからも、趣味とストレス解消とを兼ねて続けているのだ、と。
「ま、俺が、“引越し屋”なんかになっちまったから、中々休みが取れなくて、こいつが一人でやる事が多くなったんだが……」
 ライブの終わった公園で、高橋氏が笑った。一ヶ月……下手すると二ヶ月に一度しか“デュオ”にはならない二人。それでも、そのハーモニーは胸に深く響く。一緒にいる時間がかけがえの無い物のように、言葉の一つ一つがまるで宝物であるかのように互いに顔を見合わせながら紡いでいく。それを見ながら、慎太郎と航は自分達に足りなかった物を見つけた気がした。
 あの時は、互いに紹介し終わり、取留めのない話をして別れた。
 あれから一ヶ月経った。今日は定期検査とリハビリの両方がある為、航は来れない。逆に、“計画”の事を伝えるにはもってこいだ。
「所長は、今日は歌わないんですか?」
 思わぬ所で会った高橋氏に、歌っている小田嶋氏を指して慎太郎が問う。
「“所長”は勘弁してくれよ」
 と高橋氏が笑った。
「さっきまで仕事だったんだよ。だから、今日は午後からね」
 そう言って、小田嶋氏の脇を指差す。そこには、小田嶋氏の物ではないギターが一本。
「あれだけ、先に運んでもらったんだ」
 そして二人でライブの終了を待った。
 やがてライブが終わり、近くのベンチに並んで腰掛け、慎太郎が先週の病院での出来事を二人に話した。
「その事、航くんには?」
 小田嶋氏の言葉に、高橋氏が頷く。
「言ってないです。てか、言わないでおこうかって……」
「そうだね。変に興奮しちゃっても困るし。お祖父さん達にバレると、反対されるだろうしね」
「それはいいとして。慎太郎くん」
 頷いていた高橋氏が思い出したように慎太郎の肩を叩いた。
「航くん、あの足で十五分も立ってられるのかい?」
「その事だったら、学校の椅子を借りる手配を頼んだんですけど」
 “大丈夫です”と答える慎太郎に、
「文化祭はいいとして。ここでやる時はどうするんだい?」
 今度は小田嶋氏が問う。