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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 呟きつつ、慎太郎の肩をツンツンと突付き、その目線を校庭へと導く。
「何?」
「あそこ!」
 校庭の手前左右に分かれて並ぶいつくかの露店。
「“お好み焼き”!」
 嬉しそうな航。
「行き成り“食う”のか!?」
 呆れる慎太郎。
「その為に朝ご飯抜いて来てんから!」
「マジかよ……」
 “ふっふっふっ”と笑いつつ、航がパンフの見取り図のページを見詰める。
「お好み焼き、焼きそば、ホットドッグ……。焼きうどん……。たこ焼きもあるやんっ♪」
「縁日か、お前は!?」
「“祭り”やん?」
 確かにそうだが……。
「体育館で、ステージ発表みたいのがあるぜ」
 パンフを一枚めくって、慎太郎。
 演劇部の演劇、英語部の英語劇、吹奏楽部の演奏。なにやら堅苦しそうな発表の数々である。“んー……”と眉をしかめて、さらにもう一ページめくってみる。と、
「……ステージ、あるんや……」
 そこにあった見取り図を指差し、航が人ごみで見えないグランドを見る。
「午後からって書いてあるから、後で行ってみようぜ」
 【野外ステージプログラム】は、軽音部とフォークソング同好会の演奏。正規の部活発表が体育館で、最近出来た同好会程度のものは野外、といったところだろうか。
「あ! “チア・リーディング部”!!」
 野外プログラムの中に、航がその文字を見つけた。
「体育館じゃ狭いもんな……。何時から?」
「……二時……」
「よしっ!」
 とこぶしを胸のところでグッと握って、慎太郎が眉を浮かせて笑う。
「一番前の席、陣取ろうぜ!」
 その言葉に航もニッと笑う。
「ど真ん中な!」
 そして二人で、
「ふっふっふっ……」
 とほくそ笑んでいるところに、
「気っ持ち悪ーい!」
 背後から木綿花の声がして、弾かれたように振り返る慎太郎と航。
「何笑ってたの?」
「え、えーと……」
 慌てる航。
「く、くいだおれツアーしようぜって! な、なぁ?」
 取り繕う慎太郎。
「う、うん。そーそー! それを見越して、朝ご飯抜きで来たさかい」
 そして、二人で笑い合う。
「あっやしーいっ!!」
 木綿花が腰に手を当てて二人を交互に見るが、他にも人を待たせているらしく、チラリチラリと校舎の方を気に掛けている。
「木綿花ちゃん、忙しいんやったら、俺等放っといてもええよ」
 その様子に気付いた航が笑顔を向け、
「マジで、“くいだおれツアー”してっから」
 慎太郎が背中越しにグランドを親指で指す。
「ほんとに!?」
 “ごめんね”と両手を合わせて木綿花が頭を下げた。
「トラブルがあったり、申請し忘れてるイベントがあったりでバタバタしてるのよ。お昼頃に休憩が入るから、その時に連絡するね」
 携帯を指して、木綿花が足早に校舎へと走る。
「高校入っても急がしそうやな、木綿花ちゃん」
「性分じゃねーの?」
 笑う二人。その耳に、校舎脇の木綿花達の声が聞こえる。
「木綿花。弟クン、杖ついてるけど、怪我?」「従兄弟の子、背ぇ高いね」
「杖突いてるのが従兄弟。大きいのが弟よ」
「えーっ!?」「弟、かっこいいじゃん!!」「私、従兄弟の方がタイプだな♪」
 かしましさに思わず顔を背ける慎太郎と航。
「シンタロ、かっこええって」
 “良かったやん”と航が囁き、
「お前の方がタイプだってよ」
 “お前こそ”と慎太郎が返す。
「モテ期到来?」
「かもよ……」
 笑いながら歩く校庭。まずは、お好み焼きからツアー開始だ!!

  
「もう、食えませんって感じ?」
 学食でラーメンをすすりながら航が笑った。
「食ってんじゃん!」
 同じく慎太郎。
 昼前、やっと木綿花が委員の仕事から解放され、
「ごめんね。招待しておいて、何もかまえなくて……」
 という事で、お詫びに木綿花のおごりで学食である。
「結局、食べ物は全部制覇したの?」
 勢い良く食べている男子二人に呆れつつ、木綿花が訊ねる。
「全部ちゃう」
「まんが喫茶は行ってない」
 要するに、それ以外は食べ尽くしたのだ。
「祖父ちゃんらへのお土産も買うたし……」
 と、料理部お手製のマドレーヌを見せる。
「後は、“あれ”だな」
 ニッと笑う慎太郎に、
「“あれ”やねぇ……」
 航がフッと笑い返した。
「何よ?」
 きつねうどんをすすっていた手を止めて、木綿花が訝しげに二人を見る。
「休憩、いつまでなん?」
 “ごちそうさまでした♪”と両手を合わせて航が首を傾げた。
「十二時半まで。後は……」
 顔を上げた木綿花の目に、ニヤニヤと笑う二人の顔が映る。
「見に来なくていいからっ!」
 察した木綿花が小声で声を張り上げた。
「俺等、木綿花を見に行くわけじゃねーよ。なっ!」
「そーそー。軽音部とかのライブに行くんやから」
 そう言いながらも、ニヤニヤ顔は止まらない。
「これって、二時半までステージあるけど、軽音部とフォーク部とチアとじゃ、時間余るんちゃうの?」
 午後のステージは、一時から二時半まで。しかし、プログラムに書かれているのは三つの部活名だけなのだ。どう考えても時間が余る。
「部活とは関係なしに、バンド組んでる子達がいるのよ。その子達の演奏があるの」
 “バンド”の言葉に、航の瞳が輝きだす。
「何組かあるから、それが軽音部やフォーク部の間に入るの。ただ、パンフを作る時点では参加申し込みが間に合わなくて……」
「ライブ、やんの!?」
「うん。アンプとかスピーカーとかもセッティングしてね。去年、学校見学に来た時に見たんだけど、結構本格的よ」
「今朝言ってた“申請し忘れてるイベント”って、これ?」
 慎太郎も食べ終わり、話に加わる。
「そうなの。申し込んだのに、今日の演奏プログラムの中に登録されてないところがあったり、急病でキャンセルが出たり……」
 と溜息をつく木綿花。
「でも、あたし、午後は部活以外はフリーだから!!」
 気合の入る木綿花に二人が笑った。
「で、やっぱり、女子ばっかり?」
 笑いながら、航が問い掛ける。
「んーん。去年は女子のバンドの中に男子が混じってたり、先生方が演奏したり……ってのがあったな」
 “結局、殆どが女の子だけど”と続ける。
「でもね、結構ハードなヴィジュアル系からアキバ系までレパートリーは豊富よ」
「アキバ系はともかく……」
「ハードロックは見てみたいな……」
「一組、十分から十五分だから……。六組くらいあるかな?」
「ほな、それを楽しみつつ……」
 ふっふっふっ……と航が肩を揺らせる横で、
「“お姉さん”の活躍を……」
 へっへっへっ……と慎太郎も肩を揺らす。
「航くん! 慎太郎!」
「あ! 木綿花ちゃん、時間!」
「ほらほら、準備があるんだろ?」
 急かされて席を立つが、
「あたしのは、来なくていいからねっ!!」
 振り返りざま、きっちり言い切って人ごみの中へと木綿花が姿を消した。
「じゃ、俺等も行きますか?」
「ええ席、取らな!」
 “ふっふっふっ”と妙な笑いを浮かべた二人が、学食を出て、設置が終わったばかりのステージへ向かってグランドへと姿を消した。