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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 木綿花の向こうから木綿花母の声が聞こえた。
「でも、俺……」
「帰りなら大丈夫! パパが車で送ってってくれるから!」
 家族総出で“いらっしゃい”と誘われ、航が慎太郎に意見を求めるかのようにジッと見る。
「俺も行くんだから、平気だよ。第一、そんな事を気にする人達じゃないし」
 航の気持ちを察して慎太郎が微笑む。
「……うん……。ほな、行く……」
  ――――――――――――
「航くんの口に合うかしら?」
 心配そうな口調で並べられた夕食。サラダにスープに手作りハンバーグ……。見事な洋食メニューがレストラン並に用意された食卓のその量と彩りに、
「ぅわぁ……」
 航が感嘆の声を漏らす。
「慎太郎の隣でいいわよね?」
 木綿花に言われるまま、その席へと座る二人。木綿花と木綿花母の向かい側に並んで顔を見合わせる。手渡された茶碗を片手に空腹の二人が食事に手を伸ばした。
「どうかしら?」
 木綿花母が航に声を掛ける。
「おいしいです!」
 満面の笑顔で答える航を見て、木綿花母が胸を撫で下ろした。
「ママったらね、“和食だと京都は薄味だから、味付けが上手く出来ないかもしれないし……”って」
 クスクス笑う木綿花の隣で、“余計な事、言わないの!”と木綿花母が苦笑い。
「ホンマ、おいしいです♪」
「あ!」
 ニコニコと食べる航を見ていた慎太郎が、ふと何かに気付く。
「どうしたの?」
「俺、ここで食っちゃったら、母さん、どーすんだろー……って」
「あら!」
 “それなら、大丈夫”と木綿花母。
「シンちゃんが病院に行ってる時に香澄から連絡があったのよ。“今日、残業で遅くなりそうだから、晩御飯お願い”って」
 納得する慎太郎。その横で、
「……ってくれれば、病院の送り迎えくらい、僕が車を出したのに……」
「そ、そんな厚かましい事……」
 木綿花父の言葉に航がパタパタと手を振った。
「歩いてバスに乗って行くのも、感覚を取り戻す為なのよ。ね、航くん?」
 頷く航。
「そうか……。でも、今夜は送って行くから、乗ってってくれよ」
「……でも……」
 と、チラリと慎太郎を見る。
「ご飯ご馳走になって、その上送ってもろたりするのは……」
「いやいや、航くん。遅くなるから送りますってお祖父さんにも伝えたから、ここは、おじさんの顔を立てて欲しいな」
 去年のクリスマス以来、すっかり仲良しな木綿花父と航祖父。
「…………」
 航としては、あまりよく知らない木綿花父と車で二人きりが気まずかったりするのだが、それを木綿花父が知る由はない。その事を察して、慎太郎が航の皿のポテトに手を伸ばしつつ……。
「俺も一緒に送ってくから、遠慮しないで乗せてってもらえ」
「じゃ、あたしも一緒に行く! いいでしょ、パパ? 航くん?」
 二人の申し出に航が頷き、賑やかな食卓はデザートのフルーツまで盛り上がりを見せるのだった。
  ――――――――――――
“バタン!!”
 車の後部座席のドアを閉めた途端、
「あ!!」
 航が杖を抱きかかえて声を上げた。
「どした?」
 航の隣に座って、慎太郎が首を傾げる。
「ギター、シンタロん家に置いたまんま!!」
 一大事!! と航。
「取りに行く?」
 助手席の木綿花の言葉に航が頷くが、
「いいじゃん。明日、文化祭の帰りに取りに来れば」
 “どーせ今からじゃ弾かないだろ?”と慎太郎に言われ、
「……そーやけど……」
 言葉を濁す。
「明日の帰りにまたお前ん家寄って……ってやるより、楽じゃん。直接来れるし」
「……それもそーか……」
 手元にギターが無いのは淋しいが、明日の事もあるし……。ま、アコギは無くてもエレキがあるし……。
 納得したのかしてないのか……。そんな航を乗せて、車は祖父母の待つ堀越宅へと向かった。
 明日はいよいよ文化祭。女の園へLet´s Go! である。
  

 翌日、八時半に待ち合わせた慎太郎と航。駅まではバス。そこからは電車で六駅。その駅からは又バスに乗る。ざっと一時間弱の通学時間だ。
「毎日通てるんや、木綿花ちゃん」
 ふーぅと息をついて航が言った。流石に杖を突きながらだとキツイものがある。
「リハビリよりハードやわ……」
 諸事情で木綿花の手が空くのが開催後三十分くらい経ってからだと言われ、その時間に合わせての登校(?)となった。
【桜林祭】
 校門前に綺麗に彩られたアーチ。そこには秋だというのに桜の花びらに見立てた飾りと共に濃いピンクで“桜林祭”と描かれている。
 桜林女子高等学校。チア・リーディングの大会で常にトップの成績を残している学校だ。昨年は世界大会にも出場した事で知られている。そして、この辺りの私立の女子校で唯一“介護・看護科”がある事で有名な学校である。木綿花がこの学校を希望したのは、決してチアではなく、将来、介護・看護の職につきたいと思ったから。この学校からだと、国立の看護学校への入学に断然有利なのだ。
「木綿花ちゃん、そこまで考えてんにゃ……」
 道すがら慎太郎から聞かされて航が感心しきりに頷いた。
「年寄りとか子供とかを放っておけない奴だからな」
「木綿花ちゃんのええとこやん」
 頬を赤らめて微笑む航に、
「まぁな……」
 慎太郎が同意する。
 京都へ迎えに行った時に航が言った言葉を思い出す。
『いつ死んでしまうかも分からへん……』
 これから先、どんなに木綿花を好きになっても、航がその想いを伝える事はないだろう。そう思うと、慎太郎はからかう事が出来なかった。数年前、互いに双子だと分かるまで抱いていた想い。それは、今の航と同じ感情だと知っているから……。
「俺等の学校の文化祭もこんなんやろか?」
 華やかなアーチを抜けて、航がそれを振り返りながら言う。二人の高校の文化祭は十月中旬。後、二週間先だ。
「公立だかんな……。もうちょっと地味なんじゃねーの?」
 二人揃って受付へと並ぶ。それと同時に一斉に突き刺さる視線。同年代の男子が二人。ここは女子校。当たり前っちゃ当たり前なのだが、なんだか視線が怖くて目を上げられない。
「なんか、見世物みたいや……」
 超小声で囁く航に、
「女子校、怖ぇ……」
 慎太郎が頷く。
「チケットはお持ちですか?」
 受付の生徒の問い掛けに、
「は、はい」
 二人揃って慌ててチケットを差し出す。チケットの裏には“1―1 伊倉木綿花・弟 伊倉慎太郎”“1―1 伊倉木綿花・従兄弟 堀越航”の署名。勿論、木綿花の字だ。それを来客名簿と照らし合わせてレ点チェックをすると、チケットを二人に戻す。
「校内にいる間は、ずっと持っていて下さい。提示を請求した時に持っていないと不審者として警察を呼ぶ事になります」
 笑顔で言うが、目が笑っていない。差し出された桜林祭のパンフレットを受け取ると、そそくさと受付を離れた。
「“警察呼ぶ”って……」
「ハンパないなぁ……」
 ガードの固さにビビる二人。
「で、どこ行くん?」
 受付近くは人が多くて、杖を突くのが困難だ。航が隅の方に身を寄せて辺りを見回す。
「木綿花が待ってる筈なんだけど……。早過ぎたかな?」
「でも、時間は合うてんにゃろ?」
 と背伸びをして学校の奥を見る。
「実行委員が忙しいんやろな……」