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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 何事かと二人が木綿花に注目する。
「今月の最後の土曜日って、暇?」
「こないだでバイトは終わったから、暇だけど?」
「俺、土曜は病院やけど……。どうせリハビリだけやから、前もって言うとけば一回くらい休めるかな……」
「これ。来ない?」
 と、テーブルの上に桜のイラスト入りのチケットを二枚並べてみせる木綿花。
「『桜林祭』?」
「なに、これ?」
 開催日は今月の最終金・土曜。時刻は九時〜十五時。
「うちの学校の文化祭!」
 “女子校の文化祭よぉ”と木綿花が笑顔で二人を見る。
「お前の学校の文化祭?」
「行って、何するん?」
「金曜は学校関係者だけなんだけど、土曜は家族を呼んでもいいの。本来なら“女子校”だから男子は入れないんだけど、この日の“家族”は特別なの」
「で?」
 冷めた目で慎太郎が訊きかえした。
「で、“弟”と“従兄弟”ってことで申請したら許可が出たから……」
 “ダメかな?”と二人の顔を交互に見る。
「色々考えたりするんだけど、あたしに出来る事って本当になんにも無くて……」
「……木綿花ちゃん……」
「女子校なんて、入れる機会滅多にないし。いつも同じ顔だと飽きるかな、って。気分転換に……って思ったんだけど……」
「……露店とか、出るんだよな……?」
「うん。焼きそばとお好み焼きとホットドックと……。料理部がクッキーとマドレーヌ。あと、学食も開いてるし、マン研がまんが喫茶やるって」
「俺、お好み焼き、食いたい……」
「航くん!」
「リハビリ、休むって届けとく。シンタロも行くやんな?」
 航に言われ、慎太郎がテーブルの上のチケットを一枚手に取った。
「“弟”、ね」
 溜息の慎太郎に、え? と航が見詰める。
「俺、“従兄弟”でええの?」
 あまりにスムーズに“弟”を名乗った慎太郎に驚きを隠せない航。見た目……この場合、身長である……的にも、“弟”は航の方がしっくりくる事この上ない。まん丸の瞳をした航に、木綿花と慎太郎が顔を見合す。
「だ、だって、ねぇ!」
 “姉と弟”。航の知らない事実に木綿花が慌てて言葉を探す、が、
「姉が共通語なのに、弟が関西弁じゃおかしいだろーよ」
 慎太郎に髪をクシャクシャにされて航が首を竦め、木綿花が密かに胸を撫で下ろした。
「あ、そーか!」
「じゃ、その時に“アンサー”ファンの子、紹介するね」
「なんだそりゃ?」
「知らない子の前じゃやりにくいでしょ、演奏。先に顔だけでも知ってれば、いざって時に気が楽かなって」
 そこまで考えての“文化祭ご招待”かと航が微笑み、
「ホンマにありがとうな、木綿花ちゃん」
 木綿花が黙って首を振る。
「で、木綿花ちゃんは何すんの?」
「うちのクラスは手作りマスコットの販売だけど、あたし、実行委員だからそっちには出れなくて……」
 実行委員だから、色々と雑用があるのだと言う。
「でも、二人の出迎えは受付まで行くから」
 出迎えは出来ても、結局は委員の仕事があるので、あまり一緒にはいられない。
「部活は?」
 今度は慎太郎である。
「何?」
「伯母さんが、“文化祭の練習で、毎日部活の帰りが遅くて……”って言ってたからさ」
 それを聞いて、
「何やんの?」
 航が身を乗り出した。木綿花の部活動の事は、何も知らないのだ。航の質問に、木綿花が顔を赤くして答える。
「……チア・リーディング……」
「チア……。って、ホンマに?」
 中学時代、バトン部で活躍していた木綿花。その実績と、運動能力・リズム感を買われての部活推薦だったりするのだ。
「こ、来なくていいから! てか、絶対に見に来ないで!!」
 必死に両手を振って抵抗するものの、
「ぜ・ひ! 拝見させていただきますっ!」
 “な、航”と慎太郎。
「行く行く! かっこええやん、木綿花ちゃん」
 ストリートライブで二人が経験した“緊張感”。どうやら、今度は木綿花が経験する羽目になりそうである。

  
「アッカーンッ!!」
 そんなこんなで、九月下旬。飯島家で航の声が高らかに響いた。普通に話したり、ひとりでやってる時はちゃんと出来るのだ。なのに、二人で演奏となると、必ず躓く、“応用力”。
「何がヤバイって、“応用力”に気が行き過ぎて、最近、その前の“順応力”も噛む時がねーか?」
「……さっき、俺、噛んだ。……“じゅんにょうにょく”って……」
「“じゅんにょうにょく”“おうにょうにょく”?」
「……ガタガタやん……」
 『応用力』。手強し!!
「ここ以外は問題なくクリア出来てんだけどなー……」
「“問題なく”?」
 慎太郎の言葉に航の眉がピクリと動いた。正直、歌詞に神経が傾きすぎて、ギターに影響があったりなかったりなのだ。
「……あー……。大きな問題もなく……?」
 しどろもどろしながら、航を見る。
「“クリア”……とは言えへん」
「噛んでも勢いで通すか?」
「どーしても出来ひんようやったら……」
 と、言いつつも、
「出来るようになるっ! 聴いてくれる人がひとりでも居(お)る限り、そこはちゃんとせな!」
 なんだか“プロ”のような口ぶりである。
「んじゃ、気を取り直して……。もっかいやるか?」
「うん!」
 金曜日だというのに、珍しく慎太郎からの誘いで学校のある平日に飯島家でギターを弾いている。いつもなら、土日にやるのだが、今週は土曜日が『桜林祭』で潰れるからという事で、今に至る。
  
  ♪ 大事なことは『順応力』『おうにょうにょく』『最初の一歩』……
  
 相変わらず噛みつつ、勢いに任せてフルコーラス歌い切った。……切ったところで、
“グ〜ゥッ”
 何処からか、腹時計の音が鳴り響く。
「今、何時?」
 腹を押さえて航が時計を見る。
「お前、腹減るの早くね?」
「育ち盛りやから♪」
「チビのくせに」
 ケケケと笑う慎太郎に、チッチッチッと航が指を振る。
「笑てられるのも今の内やで。伸びてきてんにゃから」
 “すぐに追いつくから”と航が嬉しそうに笑っている。実際、慎太郎の身長は伸び悩み中……というより、そろそろ成長期が終わるのだろうと思われる。ま、これで“まだまだ伸び盛り”だとそれはそれで困ってしまうから、慎太郎自身はこれで満足しているのだ。
「ゲッ!! 七時半やん!!」
 “腹も減るわ”と、思っていたより早い時間の経過に航があたふたと片付け始めた。
 と、
『慎太郎っ!!』
 窓の外から木綿花の声が響き、慎太郎がベランダへと向かう。
「今、二人で歌ってた?」
 開け放たれた窓越しに、木綿花の通る声が聞こえてくる。
「悪ぃ。うるさかったか?」
 慎太郎の謝る声に、航もベランダへと向かう。
「航くん、まだいる?」
 ベランダの薄い防災壁越しに顔を半分覗かせて問う木綿花。
「今帰るとこ」
 慎太郎の肩越しに航も顔を出す。
「ママがね、“ウチで晩御飯食べない?”って」
「俺はいいけど……」
 慎太郎がチラリと航を見る。
「帰り、遅なるし……」
「お祖母さんになら、ママが電話するって」
「……そやけど……」
 自分の持っている杖に視線を動かす航。慎太郎のところならともかく、木綿花のところにこの格好で行くのは気が引けるのだ。
「もう作っちゃったから、いらっしゃいな」