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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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「うちも、慎太郎くんは信頼してるし……。何より、当の航が頼りっきりやのに、お祖父ちゃんらがどうこう言う事やないやろ?」
「でもね、帆波ちゃん……」
「今度のライブかて、航が言い出したんやし」
 帆波は航から聞いて、何もかも知っているのだ。
「航が“ええ”って言うてるんやったら、その通りやと思うえ、うちは」
 それでも何か言いた気な祖父母達に、今度はメンタル医。
「今までの定期検査の結果を見て、脳外の医師とも意見が一致した事があります。その事で検査結果が出ましたら、皆さんに聞いていただきたい事があります。勿論、飯島くんも一緒に……」
「俺も……?」
 慎太郎の問い掛けに医師が頷き、帆波が微笑む。
「どっちにしろ、今帰ってしもたら、航が怒るえ。戻ってくるまでここで待って、うちらと一緒に出ればええわ」
「……はい……」
 ――― 三十分後、戻って来た航が慎太郎の顔を見て安心したように笑った。
「いけず、言われへんかった?」
 申し訳無さそうに航が慎太郎の顔を覗き込む。
「“いけず”ってお前……」
 戸惑う慎太郎の腰を叩いて、
「お姉ちゃんが居てんねんから、そんな事言わさへんわ」
 帆波が航に微笑む。
「俺な、しばらく入院せなアカンねん……」
 姉の言葉にエヘヘと笑って、航がチラチラと慎太郎を見る。
「毎日来るよ」
 慎太郎ではなく、メンタル医がそれに答えた。
「ホンマ!?」
 医師を見て、祖父母達を見て、慎太郎に確認するようにジッと見詰める。
「……授業のノート、取ってきてやるって、言ったじゃん」
 口元で笑いながら、毛布の掛かっている足元をチラ見して航を見ると、航が小さく一瞬だけ右足を指差した。さっき二人して感じた違和感、ただの違和感じゃなかった。慎太郎が確信した様に頷く。
「それじゃ、家族の方は説明がありますので……」
 医師二人が家族を促し、面会人全員がドアへと向かう。
「シンタロ!」
 背中を向けた慎太郎に航が声を掛けた。
「帰んの?」
 不安そうに慎太郎を見る。
「予定より遅くなったからな。それに、お前今から夕食だろ? 俺がジッと見てて食えるか?」
 慎太郎に言われて枕もとの時計を見ると、確かに食事の時間だった。
「俺も腹減ってんだよ」
 笑顔の慎太郎に、そうか! と航も笑う。
「明日! 絶対な!」
「おうっ!」
  

 別室。デスクの前にはズラリと並んだ航の脳の写真があった。前列に祖父母、すぐ後ろに車椅子の帆波、その斜め後ろに慎太郎が立っている。
「今回の入院ですが……」
 医師が慎太郎に頷く。既に慎太郎は気付いているのを承知しているようだ。
「見て頂ければ分かるかと思いますが、以前に比べ影の部分が少しですが拡大しています。今回倒れてしまったのは、それの所為だと思われます。そして、若干ではありますが、事故当時同様、運動機能障害が確認されました。今、堀越くんの右足は動きません」
 驚く祖父母達を見て、慎太郎の視線が床に落ちる。その様子に気付いて、帆波が慎太郎の手をそっと握った。
「右足はリハビリですぐに動くようになる筈ですから、心配はいりません。ただ……」
 安堵の溜息をつく間もなく、即座に空気が緊迫する。
「ただ、以前、京都の方からも説明があったと思いますが、事故当時、堀越くんは頭を強打しています。事故というのは、後遺症が一番厄介なんです。特に、頭は見当がつきません。今回で得た結果としましては……この影はストレスによって広がっていくのではないかという結論に達しました。過度の緊張や興奮がそれに当たる訳ですが……」
「……じゃ、ライブが……」
 慎太郎が小さく声を上げた。
「今回は、まさしく“それ”が原因だと思うよ。きっと緊張し過ぎたんだろうね」
 医師の言葉に、慎太郎が唇を噛む。
 もしかしたら……。あの時、ちゃんと航を見ていてやっていれば……、と……。
「そして、重要な事は、ここからここ」
 医師の手が、貼り出されている九枚の写真を移動する。
「声を取り戻してから、この四月までの写真を見て下さい。この間、何も大きな出来事はなかった筈です。でも、ほんの僅かですが影が進行しています」
 一枚ずつ見ても分からないくらいの本当に僅かな進行だ。
「人間の“脳”というのは、まだ、完全には把握されていないのが現状です。ましてや、一度、正常な部分での言語・運動・記憶の部分が死滅していますから、今機能しているのは、少し違った部分となります。この先、いつ、どこで、どの部分が影に侵されてしまうかは残念ながら判断出来かねます」
「その度にリハビリでは、あきませんのやろか?」
 帆波が訊ねると、脳神経科医師が頷いた。
「リハビリで取り返せる部分なら、なんの問題もありません」
「……と、言われますと?」
 祖父母達が顔を見合わせる。
「呼吸を司る部分が侵された場合、手の下しようがなくなるのです」
「……脳死……」
 呟く帆波の言葉に、全員が振り返る。
「このまま何事もなく一生を過ごせる確率と、いつどこで倒れてしまうか分からない確率は五分五分です。この件に関しては、ご家族の方にはお知らせしなければいけないと、京都の病院の方ともコンタクトをとった結果です」
 脳神経科医師が静かに頭を下げた。不安が祖父母達に一気に襲い掛かる。帆波の方はある程度の覚悟はしていたようで、不安そうに見てくる慎太郎に黙って頷いている。
「その事、航には?」
 帆波の質問に医師が首を振った。
「伝えてしまって、悲観にくれてしまっては……と思い、まだ……」
 “伝えましょうか?”と家族に視線を送るが、
「黙っておいてもらえますやろか?」
 家族を代表するかのように、帆波が答える。
「いずれ、気が付くと思います。それでも、伝えてしもうて、それがストレスになる事は、今は……」
 向けられた視線に、祖父母達が頷き、医師も頷いた。そんな家族の様子に微笑みながら、
「そこで、飯島くん」
 今度はメンタル医である。
「君は、堀越くんとずっと付き合っていけるかな?」
 見詰めてくるメンタル医を真っ直ぐに見詰め返す慎太郎。
「あの子は君に全幅の信頼を寄せている。その信頼を背負っていく事は出来るかな?」
 医師の言葉に怯むこと無く、慎太郎が無言で頷いた。その回答が分かっていたかのように医師が笑って頷く。そして、祖父母達に視線を移す。
「検査の合間に堀越くんと話をしました。多少のストレスならば、飯島くんがいる事で解消できるようです。なにより、飯島くんによって二度も呼び戻されている。これが信頼でなくてなんでしょう?」
 祖父母達が顔を見合わせる。
「確かに“家族”はなくてはならないものです。ですが、“親友”というのも掛替えのない大切なものではないかと思います」
 医師の言葉に、祖父母達が慎太郎に頭を下げた。慎太郎も慌てて下げ返す。その様子に頷くと、医師が続けた。
「しばらくは、足の事もあるので入院という形をとりますが、心配なのは、その後です」
 そう言って慎太郎を見る。
「あの子の事だ。歩けるようになったら、きっとまたライブをやりたがるだろう。しかし、それは避けなければならない。お祖父さん達では、きっとあの子は言う事を聞かない」
「俺に“止めろ”って?」