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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 慎太郎が訝しげに医師を見る。
「今回の事もある。“極度の緊張”というストレスは避けたいんだ」
 と、医師が慎太郎の肩に手を置く。
 確かに、航なら言いかねない。ただでさえ、今回、倒れた記憶がないのだ。自分が倒れている間の慎太郎の気持ちは到底分からないだろう。息が止まってしまう程の胸の痛み……。二度と味わいたくは無い。でも、あのひと時が楽しかったのも事実だ。例え、それが“極度の緊張”のど真ん中に位置していたとしても……。
「……飯島くん……」
 医師の呼びかけに、祖父母達の顔を見ると縋(すが)るような視線が突き刺さってくる。楽しかった想いと息の詰まる想いが交互にやってきて、すぐには返事が返せない。
「そんな決断……。高校生には荷が重すぎるんやないですか?」
 帆波が“なぁ?”と車椅子から慎太郎を見上げた。その見上げてくる瞳に航の顔が重なり、胸が締め付けられる。
「……分かりました」
 “楽しい”を“苦しい”が上回り、慎太郎は呟くように頷くのだった。
  

“コンコン”
 夕食を食べ終えたばかりの航の部屋に、突然ノックが響いた。きっと祖父母達だ、と航は思った。食事の用意も片付けも看護師がしてくれた。心配性だな……と思いながらも、大事にされている事を実感する。
「祖父ちゃん?」
 問い掛けたドアが開いて、帰ったと思っていた慎太郎がそっと入って来た。
「帰ったんちゃうん?」
 嫌味を言ってみるが、顔が嬉しそうだ。
「……携帯、平気かな?」
 一応、病院内はロビーの一角を除いて携帯電話の使用は“禁止”となっている。
「ちょっとくらいやったら、バレへんと思うけど……。なに?」
 首を傾げる航の横で、手早くリダイヤルする慎太郎。
「ほい!」
 呼び出し音のまま携帯を渡され、耳に当てる。
『もしもし?』
 聞き覚えのある女の子の声が聞こえる。
「……木綿花ちゃん!?」
『航くん? 本当に、航くん?』
「う、うん」
 頷く航の頬がピンクに染まる。
『慎太郎からメール貰ったの。航くんが目を覚ましたって……』
「うん」
『ごめんね。あたしが変なリクエストしちゃったから……』
 電話の向こうの声が泣き声になる。
「木綿花ちゃんの所為やないよ。たまたま重なっただけやから……」
『でも……』
「元気やし、俺。でも、しばらくは入院やから、時間があったらシンタロと来てくれると嬉しいな」
『……行っても、いいの?』
「当たり前やん」
『お祖父さん達、怒ったりしてない?』
「んな訳ないやん」
 エヘヘと笑う航を見て、慎太郎がドアを開ける。入ってくる筈の廊下の明かりが、不意に影で遮られ、航が顔を上げた。
「え!?」
 自分の持っている携帯とドアの影を交互に見て、航が驚く。それと同時に、泣き顔の影が駆け寄り、ベッドの航に抱きついた。
「良かった……」
 しがみ付くように抱きしめながら泣き出す。
「……木綿花……ちゃん……」
 木綿花にギュッとしがみつかれ、航の顔が見る見る真っ赤になった。恥かしくて抱きしめ返す事も出来ずドアの方を見ると、慎太郎がニッ! と笑っている。
 近すぎる距離に戸惑う航。
 窓の外の若葉越しに、月の光が差し込んでいた。