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有栖川煌斗
有栖川煌斗
novelistID. 23709
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生徒会長の好きなもの

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「いやいや。欠席していたやつはそもそも校歌の練習云々についての情報を知り得ないだろうが。」

なにを当たり前のことをと良助が云う。

「その欠席をしていた人間が校歌の練習について知っていたらどうでしょうか。たとえばそれが『校歌の伴奏者』だったら。」

「いやしかし、校歌の伴奏者って今日ちゃんといただろ?」


「ううん。違うよ。あの子は本当の伴奏者じゃないの。」


良助の疑問に答えたのは工藤さんだった。

「そう本来校歌を伴奏する予定だった生徒は本日欠席しています。その生徒の名前は美倉紫乃(みくらしの)南高2年の2組の生徒です。」

「そうそう。紫乃ちゃん。ちょっとしか話したことないけど私知ってるよ。こないだ校歌の楽譜もってたもん。」

「彼女なら事前に校歌の練習の事を知っています。それの打ち合わせに行ったのは他でもない高城里美です。」

「だが待ってくれ。彼女がエムちゃんだとしたらクラスに関する命題に矛盾するだろ。エムちゃんは3組か4組のはずだ。エムちゃんが嘘をついたのか?」

「いえ、すいません。始めに云っておくべきでしたが、実は2組も9月29日の2時間目は数学だったのです。その日2組の数学を担当する鈴木先生の都合で本来4時間目にあった数学が入れ替わって2時間目に変更されたんです。つまり彼女はエムちゃんの条件のすべてに該当します。」




 そこまで聞いてようやく良助は納得したようだった。


「まったく、やられたよ。いつから気づいていたんだ。」

「美倉さんが浮かんだのは良助の話を聞いた時ですよ。始めから高城さんがエムちゃんでないことは分っていましたから。」

「なぜだ?」

「彼女がそんなことするはずありません。もし何か正当な理由があったにしても彼女なら他の方法をとります。」俺はそう断言する。

「…なるほどな。お前なら同じ生徒会役員の性格くらい把握してるか。ん―じゃあもしかしてお前アドレスを見た時にこれが高城里美のアドレスだって分っていたんじゃないのか。」

「いえいえ。さすがにそれはありまえんよ。人のメールアドレスなんて一々覚えていません。」

しかし、実は良助の云った事は正しい。俺は工藤さんからエムちゃんのメールを見せてもらったときにそれが高城さんのアドレスだった事には気づいていた。そんな事をいったら大顰蹙だろうな。

「でもすごいね。さすが生徒会長だよ。」

工藤さんが素直に称賛してくれる。

「もっとも僕の案も良助の案もあくまで一つの仮説に過ぎません。実際真実は全く見当はずれなものかもしれない。あなたはエムちゃんに対してあまり悪印象を持っていないようですから個人名を示しました。良ければ本人にアポイントメントをとってみることを勧めます。」

「うん。紫乃ちゃんってたしかに人と話しているイメージないけど、でもとってもいい子だと思うんだ。」そう云う彼女は屈託のない笑みを浮かべる。



そう。彼女なら自分で真実を導けるだろう。





          *





その後、良助と工藤さんに別れを言ったあと、俺は再び生徒会室に来ていた。

そこにいる人物と話をするためだ。




「彼女、ちゃんと分ってくれると思いますよ。」




俺がそう声をかけたのは高城里美だった。










「そっか。いやあ会長が生徒会室に戻ってきて美倉さんの名前を聞いた時はおどろいたなあ。私って気持ちが顔に自動書記されちゃうのかと思ったよ。ま、私書記じゃなくて会計だけどね。」

「なんですかその上手いこといってやったぜ。みたいな顔は」

そう、俺が良助に云われて生徒会室へ戻った時に彼女、高城美里がそこにいたのだ。そしてその目的はエムちゃんこと美倉紫乃の事だった。

「驚いたのはこっちですよ。帰ったと思った人がいて、しかもそれがエムちゃん最有力候補だったなんて。」

「なにそのエムちゃんって。」

「あ、いえこちらの話です。変数xってところですかね。」

その方程式を解くために俺たちはあれこれと議論していたのだ。

「なんでまたそんな愉快な名前を―っていうか私もしかして疑われてたとか!?」

「ええ。まあ僕はアドレスを見た時に気づきましたが、友人も中々頭が切れるんですよ。事実高城さんも全くの無関係ではないようですしね。先ほどはあまり詳しくは聞けませんでしたが、一体あなたと美倉紫乃さんとの間で何があったのですか?」

俺が先ほど生徒会室から出るとき彼女に云われたのは
「彼女のこと、あまり悪く思わないであげて」の一言だった。
だから工藤さんにも彼女との接触を示唆してみたのだ。

「何かあったほどの間柄じゃないんだけどね。美倉さんとは校歌の伴奏者の件での打ち合わせをした時に知り合っただけだし。まだ前の生徒会の時だけどね。彼女ピアノの腕は確かなんだけど、口下手でね。人と直接話すのが苦手らしいのよ。それでその場でメルアドを交換してメールで打ち合わせしてみたんだけど、彼女メールだとすっごい饒舌なんだよねこれが。それである日彼女からメールが来たんだ。
【今日とっても素敵なことがあったの】
って。
話を聞いてみれば3組の工藤恵理子さんが廊下で楽譜を落としてしまった時に一緒に拾ってくれたんだってさ。それでその時少しだけ話をして
「校歌の伴奏頑張ってね。また話しよ。」
って言われたんだって。
彼女すごくうれしそうで工藤さんと友達になりたいなって云っていたのよ。それだけなら、なんの問題もないんだけどね。やっぱり直接だと話かけられなかったんだって。
だから私は【私みたいにメールで話てみたら】っていったの。
それでもメルアドしらないし、とか、メールでもなんか恥ずかしいしいって渋っていたから、なら私のメールアドレスで送ってみればって云ったの。それであのIDとパスワードってのを教えてあげて―」

「いや待ってください。最後が良く納得できないんですが、なぜそれでわざわざ高城さん自身のアカウントを教えたりしたんですか。送り主を知られないようにするならフリーのアドレスを取得すれば済むことじゃないですか。」

「アカウント?ってなに?いや私そんなコンピュータの事とかよくわかんないし、普段あんまり使っていない生徒会用のアドレスならいいと思ったのよ。」

「じゃあ彼女はアカウントを不正使用していたわけではないのですね。」

やはり真実は中々思った通りにはいかないものだ。里美の語った事実は確かに合理的ではないかもしれないが、それが人間らしい気がした。彼女は彼女なりに最善と思われる方法をとったのだ。それが正しいかどうかは人によって全く異なるということだ。

「あ、それともう一つ。ここにはどうして戻ってきたのですか。てっきり美倉さんのところへ行ったのだと思いましたが。」