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有栖川煌斗
有栖川煌斗
novelistID. 23709
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生徒会長の好きなもの

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 まあそれはいい。それで誰ならメールが送りやすいのか考えた。これは今言った不明確な仮定を前提としているが、それでもその上で考えてみると一つの答えが浮かんだ。」

「生徒会関係者…ですか?」俺はそこで口をはさむ。

「そうだ。生徒会の関係者は一般生徒から離れていたし、指示を出すために何度も舞台裏にいったりしたはずだ。人の目を盗んでメールを送ることくらいは簡単だろう。
 論拠が弱いことは認めるがね。それでも否定できる材料もないだろう。」

論拠が弱いという言葉とは裏腹に良助はそれがゆるぎない真実だと疑っていない自信がにじみ出ていた。

「ええ。その命題を真とするならば、今まで出た命題との論理和を考えるとエムちゃんとして考えられるのは…」

「そう。

『南高の生徒である。』且つ

『2年生である。』且つ

『3組または4組である。』且つ

『生徒会役員』である。

 これに該当するのは高城里美一人しかいない。組の制約がなければお前も最有力候補だったんだけどな。」

 そういって面白そうに俺を指差す良助。
生徒会にはもう一人2年生がいるというのは今は云わないでおこう。副会長なんですけどね。

「それに前生徒会との連絡のやり取りにフリーメールアドレスを使ってメールをしていたのを思い出した。それでもしかしたら業務用アドレスとして生徒会には記録があるかと考えたんだ。それで煌斗にそれをたのんだ。
 結果はドンピシャだったみたいだな。」

そう。俺は良助に言われ、生徒会の端末から役員のアドレスを検索した。その中でエムちゃんの使用したアドレスが高城里美のアドレスとして登録されていた。

「すごいすごい!相良君天才だよ。」

工藤さんは単純に答えが分ったことを喜んでいるようだ。

「いやいや。喜んでもいられないぞ。エムちゃんの正体が生徒会役員だったんだ。一体どういう目的かはわからんが、これは思ったよりも大事件だ。煌斗、彼女はまだ学校にいるのか?」

「いえ、今日は早めに解散しましたからね。高城さんも直ぐに帰ったみたいでしたが。」

彼女は一番に生徒会室を出て行った。今思えば何か急いでいたようにも見えた。

「じゃあ話を聞くのは明日にするか。目的もそれでわかるだろうしな。恵理子もそれでいいか?」

「うん。大丈夫だよ。エムちゃんが誰か分っただけで満足です。」

そう言って良助も工藤さんもすべて解決したことに満足げな表情を浮かべていた。





しかし、俺はここで議論を終わらせるわけにはいかなかった。






なぜならこの事件はまだ何一つ解決していないからだ。






「彼女に話を聞く事は賛成ですが。質問事項はその目的ではありません。


 『いつ、誰に自分のアカウントを知られたか』
         
                          です。」











俺の言葉を聞いて2人はマシュマロを食べていたら中に石ころが入っていたかのような表情を浮かべた。

「どういうことだ?つまりお前は高城里美がエムちゃんではないと言いたいのか?」

「その通りです。彼女はエムちゃんではありません。」

「いや、だがな。実際に証拠が出てるんだ。疑う余地はないだろ。」

「分ったのは彼女のアドレスから工藤さんにメールが送信されたという事実だけです。高城里美がエムちゃんであるという証拠ではありません。」

「つまり“なりすまし”ってことか。しかし、お前だってさっき言っていたろ。可能性を考えたら切りがないって。彼女のアカウントを不正使用した第三者を疑うより、アカウント所有者本人を疑うほうが自然じゃないのか。」

「いえ、問題なのは
『エムちゃんのアドレスが高城里美のアドレスとして登録されていた』
という事実です。
どうしてエムちゃんはわざわざ生徒会に業務用として登録されているメールアドレスを使用したのでしょうか。始めにも云った通り、フリーメールなら簡単にアドレスを入手する事ができます。エムちゃんが自分の事を知られたいと思っていたかにもよりますが、自身の携帯のアドレスから送っていないことからも少し不自然に感じます。」

「いや確かにそうだがな。そこまで深く考えていなかったんじゃないのか。携帯のアドレスを使用しないだけで十分な偽装になると満足していたかもしれんぞ。事実お前がいなかったら直ぐにはエムちゃん=彼女のアドレスとは分らなかっただろう。」

「その可能性もあります。ですから『高城里美がエムちゃんではないかもしれない』という立場をとってもう一度絞り込みの決め手となった『エムちゃんは生徒会役員』であるという命題を考えてみましょう。
生徒会役員以外にあのメールを送ることができた人間はいないか、です。」

「だが送れたかどうかで考えたら一般生徒だって含まれてしまうだろ。たしかにリスキーではあるが、不可能なわけではないからな。それじゃあまた議論のやり直しだ。」

「いえ。不可能なんです。」

その言葉にさすがに良助は驚いたようだった。

「不可能ってどういう意味だ。」

「そのままの意味です。一般生徒にあのメールを送ることはできません。」

「えーなんでなんでー?」

先ほどから黙って話を聞いていた工藤さんが身をのりだして尋ねる。横にいる良助も早く云えと云わんばかりだ。

「良助の云った通り重要なのはメールの文面の内容と送信時間です。良助は論証に送信時間の重要性を特に使用しましたが、文面の内容にも注目しなければなりません。」

「なぜだ。校歌の声が小さくて練習するってのは俺だって―」

そこで良助は気づいたようだった。

「…俺は馬鹿だな。完全な思い違いをしていた。」悔しそうにそうつぶやく。

「そうです。送信時間8時18分時点で一般生徒がこの情報を知っているわけはないのです。校長先生の話が長引いた影響で今日は急遽予定を変更しました。本来校歌の練習を伝えるはずの『生徒会からの報告』をカットしたんです。一般生徒に伝えたのは朝礼終了後のホームルームでクラス委員長からです。」

もし、予定通りに進んでいれば証明できなかった反例である。

「一般生徒ではないってのは分ったが、それなら一層『エムちゃんが生徒会役員である』という命題の信憑性が増したんじゃないのか。他にこのメールが送れた人間はいないだろう。」

「そうですね。順を追って考えてみましょうか。まず良助の云った
『誰がこの時間にメールを送ることができたか』
ということですが、確かに生徒会の人間であれば可能です。人目を盗んでメールを送るくらいなら司会をしていた高城さんにもできたでしょう。しかし、他にもこの時間に簡単にメールを送ることができた人間がいます。」

「それは誰だ。」


「今日欠席している人間です。」


そこで良助はまた苦い顔をした。マシュマロの中に入っていた石を抜いたら今度はタバスコが入っていたような。