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有栖川煌斗
有栖川煌斗
novelistID. 23709
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生徒会長の好きなもの

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「それじゃあ、なんか可愛くないなあ。エムちゃんなんてどう?MailのMをとってエムちゃん。」

何故か彼女はうれしそうである。そして呑気である。そう彼女はこの一連の出来事を『ついでに』相談したことを忘れてはならない。あんまり深刻ではないのだ。

「えっと、話を戻しましょう。そのエムちゃんの真意についての検証でしたね。」

「え、なにエムちゃんで通すのか!?」

「まあまあ。いいじゃないですか。それでエムちゃんが恵理子さんに正体を知られたくないか否かでしょ。」

「この手のタイプは単純に分類できるもんでもないかもしれないがな。知られたくないけど知っていてほしい。知られたいけど知られたくない。みたいな、そんな曖昧な感じが案外多いかもしれんな。」

「そうですね。感覚としては掲示板やSNSみたいなものに近いでしょうか。自分のプライバシィを開示して、聞いてほしいがある程度の匿名性も保っていたい、という。」

「だが手段は明らかに迷惑行為だ。それは恵理子が送ったメールに答えないことからもわかる。つか、これを男が送っているとみれば普通にストーカーからのメールだしな。」

確かにメールの送り主、いやエムちゃんが男か女かで受ける印象は大分違ってくる。もしストーカー目的のメールならばその心理は我々の理解の及びがつかないものかもしれない。
 俺はストーカーの気持ちなんて『まったく!』わからないな。

「ではその辺りの先入観はとりあえず、棚上げしてエムちゃんの絞り込みをしてみましょうか。」

 元々あまり実のある検証でないのも確かである。そろそろ本題に入ってもいいだろう。良助も異論はないようだった。

「はいはあーい。私が思うにエムちゃんは南高校の生徒だと思います。」

工藤さんの間抜け―否,明るい声が教室に響く。

「いいからお前は少し黙っとけ。」

消極的同意。

「でもその命題が成立するかどうかはかなり重要ですよ。絞り込みの第一歩です。」

「疑う余地はないだろ。明らかに南高の生徒としての文面だし、偽装するにしても外の人間じゃあ限界があるしな。まあ、兄弟に南高の生徒がいて聞いたってんならありえるかもしれんが。」

「いえ、その可能性は低いですね。」

「どうして?」工藤さんが訊く。

「文面は偽装できてもその送信時間が問題です。さっき見せてもらったメールの中に僕の生徒会長当選を示す文面がありましたよね。その送信日時は10月3日の午前12時45分でした。生徒会選挙の結果が公表されたのが同日のお昼の放送です。放送開始時間は12時30分。僕の当選の知らせは得票数の発表、選挙管理委員会委員長からの言葉の後でしたから40分くらいだったと思います。エムちゃんはそれを聞いて直ぐに工藤さんにメールを送信している。これはエムちゃんが南高生徒であるという論拠として採用してもいいんじゃないでしょうか。」

「お前よくそんな時間覚えてんな。」

工藤さんは驚いているようだったが、云った本人の良助はさほど驚いてはいなかった。おそらく俺の云ったことは良助も考えていただろう。

「可能性を考えても切りがありませんしね。ここは素直に考えていきましょう。」

仮に、生徒ではなく、教師やその他の関係者。もしくはメールは一人ではなく複数人によって送られていると考え出してしまったら収集がつかなくなる。

「よし。じゃあ俺も絞り込んでやる。」良助は自信ありげに云う。

「なになに?どう絞り込むの?」

工藤さんは何やら楽しくなってきたのか先ほどにも増してテンションが高い。

「エムちゃんの学年だよ。」良助が云う。

「学年?でも会長が飛鳥君になったのは全校が知っているよ。」

「俺が注目したのはそのメールじゃない。【次は、大嫌いな数学~】ってメールあったろ。
そのメールが送られたのが9月29日。送信時間は丁度1時間目の後の休み時間。つまり月曜の2時間目が数学だったってことだ。月曜の午前に数学があるのは2年か3年だ。去年と変わってなければだが、煌斗どうだ?」

「ええ。1年生で月曜2時限目に数学があるクラスはありません。」

「ここで1年の線は消える。それであとは2年か3年だが、この日3年生は午前中受験説明会で授業がなかったはずだ。部活の先輩が愚痴っていたから覚えてる。これで3年という線も消えた。さらにクラスもある程度絞れる。ウチのクラスは月曜の2時間目は数学じゃない。確か月曜の2時間目に数学があるのは恵理子の3組と4組だったはずだ。」

「うん。そうそう。3組と4組は合同で授業してるからね。」

「これでエムちゃんは南高2年の3組又は4組ってことになるわけだ。」

良助は満足そうに云い終えた。工藤さんだけでなく彼もまたこの状況を楽しんでいるのかもしれない。

「すごーい。相良くん。探偵みたいだね!」

工藤さんは大げさに拍手してはしゃいでいる。深刻さ皆無である。おそらく今一番この状況に深刻さを抱いているのは俺だろう。

「まあこんだけヒントがあればな。それに3組か4組って分っただけで、個人の特定となると相当たいへ―」

そこまで云った良助はそこで言葉を区切り、目を何度も瞬きさせて息を飲んだ。
彼はしばらくそのままの姿勢で何か考えているようだった。

「おい。恵理子。さっきのメールの中に校歌の声なんちゃらってメールあったろ?あれもっかい見せてくれ。」

良助は興奮した様子で工藤さんにそう頼んだんだった。

【校歌の声が小さいから練習なんて嫌になっちゃうよね。】

携帯の画面を見つめて良助はまたしばらく黙ってしまった。

「…煌斗。今からちょっと生徒会室に行って調べてきてほしい事があるんだ。」

「ん?ええ。それは構いませんが…。」

俺は良助からの指示を受け生徒会室へ向かった。



        *



「結論から言いますと、確かに送られてきたメールアドレスが誰のものか分りました。」
生徒会室から再び戻った俺は待っていた2人にそう切り出した。



「それは生徒会会計、高城里美のものでした。」










「やはり重要なのはメールの文面の内容と送信時間なんだよ。いや、今回に限って言えば送信時間の方だな。俺が注目したこの【校歌の声~】ってメールだがな、送信日時は今日の朝、8時18分。この時間はまだ朝礼の最中だ。ここで考えなければいけないのは、

 『誰がこのメールを送ることができたのか?』ってことだ。

朝礼中に人目を盗んで携帯電話を操作することは不可能じゃない。がしかし、周りの生徒からは確実に注目されるだろう。下手すれば先生に見つかって携帯を没収されかねない。かなりリスキーな上に、エムちゃんにっとって人からの注目を浴びるのは好ましい事態ではなかったはずだ。最も朝礼の最中にこんなメールを送ってんだから、どうだか分らないがな。
 これは俺の全くの推測だが、煌斗が皆の前で生徒会長として話をした事に興奮してたんじゃないか?メールを見ると節々に煌斗の事を話題にしてるしな。