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有栖川煌斗
有栖川煌斗
novelistID. 23709
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生徒会長の好きなもの

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彼女は疑いの目をこちらに向ける。子供のいたずらを疑う母親のような視線。

「あ、ああいや。なんとなく聞いただけだよ。ひきとめて悪かったね。お疲れ様。」

「ええ、ごきげんよう」

そういって彼女は生徒会室を出ていく。佐久も帰ったし、残った俺はすぐに生徒会室のカギを施錠し、昇降口へ向かう。ここは速さがすべてだ。俺はそこから1年の昇降口のある東館へとむかった。

「あ、会長。さようなら。」
「え、あれ生徒会長じゃない?」「一年の昇降口にどうしたのかしら?」「会長ってやっぱり綺麗よね。」

 時間が早いだけあり、帰宅部の生徒がまだ多かった。できるだけ目立たぬようにあいさつを交わし、昇降口へとむかう。

「会長。あの今朝のお話素敵でした。」

後輩女生徒が浮かれたようにそう言ってきたと思えば、遠くではなにやらきゃあきゃあと騒いでいる。まずいこれでは隠密行動が台無しではないか。早く隠れる場所をみつけないと―。
 しかし、次の瞬間に眼に入ってきた物から俺はもう神経のほとんどがそちらに向いてしまった。

それは何故か…

可愛いのだ。あれはかわいすぎる。もし可愛いことが罪になるとしたなら彼女は即刻有罪。執行猶予なし。いや終身刑ものだ。あんな可愛いのもがこの世に存在すること事態がもうすでにこの地球がおかしくなっている証拠ではないか。環境問題などよりも、もっと彼女の可愛さを問題にすべきであろう。これはいったいどうしたことか。その深刻さが世間は分っていないのだ。

 いやいや、あまり浮かれてもいられない。向こうに気づかれてしまっては今日を一日千秋のおもいで待ちわびたのが無駄と化してしまう。それは避けなければならない。幸い向こうはまだ気づいていない。しかし、いまの状況。これでは気づかれるのは時間の問題である。まあ彼女の可愛さを前にしたら俺などの凡庸なオーラなど分子崩壊を起こして消え去ることは必至であるが。ここは石橋をたたくくらいの覚悟でないといけない。
 俺は靴箱の影に隠れ、彼女が昇降口を出て行くのをまった。
 彼女はといえば友達と楽しそうに談笑している。その笑顔ときたら、まぶしすぎる。

 あ、でも少し荷物が重そうだな。

 今日の彼女のクラスの時間割は主要5教科が多かったから教科書類が増えたのだろう。あんな綺麗で細い腕で、あんな重い荷物を持つなんて。
代わりに持ってあげたいのは山々だが俺には彼女に気づかれずに帰り道を見届けるという重大かつ最優先の任務があるのだ。それを全うするためには心を殺して鬼になるしかない。たとえ彼女につらい思いをさせたとしても、万が一彼女を襲うかもしれない脅威から守るほうが重要なのだ。
 最近、いや世の中はいつの時代も物騒なのである。もし、彼女のあの驚異的な可愛さゆえに、ストーカーの類が発生してしまったらどうしようというのだ。最近そうやって物陰から女子高生を観察する不届き者が多いというじゃないか。彼らに言わせれば、自分が見守ってあげないと、声をかける勇気がなくて、などという自分勝手な正義感や言い訳を振りかざしているらしいが犯罪は犯罪である。それは許すことができないし、彼女をそんな魔の手から救い出すのは俺しか―


「あのう会長何をやっていらっしゃいますの。」


 彼女の殺人的な可愛さに気を取られていた俺は背後からの声にびくっとなってしまった。
 それだけで誰かは分る。声色はいつもの上品な声なのだ。トーンも。
だが何故か怖い。
おそらく振り向けば信じられないくらい満面の笑みを浮かべている我が頼もしき副会長がいるだろう。そうだ彼女の隣にいるべき芽李美の姿がないじゃないか。
 俺はなんと軽率な―

「あ、ああ副会長。奇遇だね。今帰りかい?」

振り返るとやはりそこには上品に笑顔を浮かべているお嬢様副会長の姿があった。

「先ほど、生徒会室で同じようなことを聞かれましたね。ところで会長は1年生の昇降口のそれもこんな靴箱の影で隠れて様子を見るように何をされていますの。」

怖い怖い怖い怖い怖い。笑っているけど怖いよ。

「いやそのあの、そ、そう。さっき生徒会室で言い忘れたことがあってね。こうして副会長をまっていたんだよ。」

「そうですか。こんな隠れるみたいにしていたものですからてっきりストーキングでもされているのではと思いましたわ。」

「ま、ま、まさか。そんなことするはずありませんわ。」

「口調がかわってますわよ。」

「そんなわけありません!」

「まあ、大変優秀で皆さまからの信頼も厚い生徒会長様がそんなことなさるとはわたくしも思いませんわ。」

ウフフっと口に手を当てて笑う彼女はなぜか悪魔に見えた。

「あれ、兄さん?」

 窮地に立たされていた俺はそこで今回の任務の失敗を悟った。この誰にも、そう芽李美にも劣らない美声の持ち主はこの世で一人しかいないのだ。

「お、おう雲雀。今帰りか。」

「なにその偶然の装いかた。普通に不自然だよ。」

 普通に不自然とはそれはいったい普通なのか不自然なのかどっちなのだ。いやまあこの場合当然不自然であると言いたいのだろう。
先ほどの笑顔と打って変わって懐疑的な表情をこちらに向ける。しかしそれでも超絶的に可愛いというのはどういうことだ。おーい。だれか彼女を逮捕してくれ。犯罪的な可愛さである。ま、妹なんですけどね。俺の。

「いや、あの、そうだ。ちょうどいいしたまには一緒に帰らないか。」

「てか、どうせまたストーカーするつもりだったんでしょ。やめてよねホント。恥ずかしいなあ。」

ああそんな顔で俺を見ないでくれ。俺はうなだれて妹に頭を下げる。

「あの。ごめんなさい。お兄ちゃん。雲雀の事が好きすぎて。」

「いや、そこは普通に心配で、とか言いなさいよ!このシスコン!」

「あ、そうそう。雲雀の事が心配で。」

「何言いなおしてるの。ああもう皆こっち見てるじゃない。恥ずかしい。」

下校中の生徒はこちらに視線を向けていた。事態が分からず困惑しているものもいれば、状況が分かっていて笑っている生徒もいる。
まあこの可愛い子が俺の妹だということは結構知れわたっているだろうからな。

「ごめんなさい。」兄の威厳などはじめからない。

「まったく、芽李美にもいつも迷惑かけて。ほんとごめんね。」

「いえ、わたくしはわたくしで楽しませてもらっていますので。」

「芽李美も物好きだよね。こんな人の下で働くなんて。」

「普段はとてもしっかりしてらっしゃいますよ。尊敬に値するくらいに。」

「ふーん。まあいいけど。それじゃあ、もう私たち帰るけどついてこないでよ。」

そういって我が妹は帰って行ってしまった。
そして残された俺は夢遊病のようにその場を後にしたのだった。


オペレーション (←妹の後をつける)失敗。



「それにしても本当にあの会長がシスコンだったなんてね。」

「え?ああ、そっか。沙織はあの馬鹿兄見るの初めてだっけ?」

「馬鹿兄って。そりゃ、話には聞いていたけどさ。ちょっと信じられないじゃない。普段はあんな凛々しいのに妹の前ではあんな感じだなんて。信じてない子も多いんじゃないかな。私のさっきまではその一人だったし。」