看護師の不思議な体験談 其の一
勤務がとてもおだやかな日で、休憩室に珍しくみんながそろう時とか、ふとそういう怖い話になる時がある。たいていは、夜勤帯。
でも、一番怖いのは…、そんな怖い話で盛り上がった後の巡回だと思う。
「ちょ、まじ、付いて来て」
「嫌よ~、次はあんたの順番」
「はぁ~…」
大きなため息をつきながら、懐中電灯を手にする。
廊下に一歩出る。廊下突き当たり一番奥のガラス戸にぼんやりと動くもの。
「ひっ!」
…なんだ、今私が持った懐中電灯の光じゃん。
一歩目からびびりまくりの自分。
しんと静まり返った長い廊下。
自分の足音さえ聞こえない。
たまに患者さんのいびきが聞こえて、なんだかほっとする。
重症患者を優先に、次に個室をまわり、最後に大部屋へ。
大部屋のほうへ体を向けると、少し開いたカーテンの隙間から老婆の顔。
「ぎゃぁっ!」
心臓鷲掴みされる。
「看護婦さーん、しっこ行きたい」
老婆…じゃなくて、入院患者さん。
「あ、ご、ごめんなさい。一緒に行きましょうね。」
手をひいてトイレまで。
本当に失礼しました。と、心の中で平謝り。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の一 作家名:柊 恵二