看護師の不思議な体験談 其の一
正直、罰ゲームのような巡回を終え、ナースステーションへ戻ってきた。
ビビリの私には涙もの。
「もう怖い話なんか、せんよ~」
「言い出したのはそっちでしょうが」
同僚の冷たい一言。
(とりあえず、もう仕事に没頭しよう)
仕事に集中していれば、いつの間にか怖い思いなんてどこかに行ってしまう。
そこへ仮眠から起きて来た後輩が、大きなあくびをしながらナースステーション内に入ってきた。
「あー、すみませんでした」
後輩が髪を束ね直す。
「何がね?」
「あれ、何か緊急入院入ってきませんでした?」
(まだ寝ぼけてんのかな)
「なんもなかったけど。」
「おっかしいなー、仮眠室でウトウトしてたら、廊下をめっちゃ走り回ってる音が聞こえてきましたよ。何人かの足音がしたから、入院きたんだわーって思ってたんですけど。」
「……」
「ああ、もしかして先輩の足音ですか?何度も行ったり来たり。静かに歩かないと苦情きますよー。」
私と同僚は、目を合わせ言葉が出ない。ブルッと身震い。
後輩は、おかげで目が覚めましたよ、とかなんとかブツブツと愚痴っている。
生意気な口をきく後輩にイラッとしつつも、一人平和な後輩がうらやましかった。
もう、ホント勘弁して…。
たまーにあります、こういう話。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の一 作家名:柊 恵二