分岐点 (後編)
坂木家の豪華な玄関の扉を開ける。
―鍵がかかってない…
安心と不安が広がる。
―罠なんじゃ…
そう思いながらも、今は中へと入るしかなかった。
真っ暗闇な外からから、真っ暗闇な中へと入った。
つばを飲み込みながら、玄関の扉を音を立てないように、慎重に閉めた。
自分の呼吸すら大きな音として聞こえる。
頭の一部では、自分が今とんでもないことをしているのはよく分かっていた。無断で人の家に入り込んでいるのだ。
今まで生きてきて、こんな非常識なことしたことがない。
シンとした空間。時折、冬風が窓を揺らし、ギシッと音を鳴らす。
―絶対、ここにいる
直感とか第六感とか、よく分からないが、竜輝がここにいるのは絶対な気がしていた。
―会いたい、会いたい
裸足で一歩中で入った。
雨で濡れた足が、フローリングにぺチャリと小さく音を立てる。
徐々に暗闇に目が慣れ始めた。