分岐点 (後編)
「千恵ちゃんも早く、お外行きたーい!」
千恵は準備万端で足踏みしながら、外に出たくてうずうずしている。
「かーちゃん、見て、一人で靴はけたよ!」
満足感でいっぱいの、竜輝の笑顔。
「ようし、えらい!」
扉を開けると同時に、二人は子犬のようにじゃれあいながら走り出す。
二人の口からは、あの日と同じように真っ白な息が吐き出される。
今日も平和な日常が始まる。
この何気ないひと時がどれだけ幸せなことか。
『この一瞬を大事に』とか、『一生懸命生きる』とか、そんな言葉、昔は嫌いだった。
言葉の意味の重みを理解できていなかったからだろう。
今は分かる。