分岐点 (後編)
「かーちゃん、靴はけれないってばぁー!」
竜輝の声にハッとする。
「もう!自分ではけるでしょ!頑張って!」
「ぷんぷんかーちゃんになったらいけーん。」
泣きそうな声になりながらも、小さな手で一生懸命靴を履く竜輝。
もうすぐ5歳になる竜輝。
早く大きくなってほしいような、このままでいてほしいような…。
「わし、先に会社行くよ。」
靴を履く竜輝をまたぎながら、啓一が玄関を開け外に出る。
あれから啓一は見た目は何も変わっていないようだが、入院中、毎日徹夜で竜輝に付き添っていた姿を私だけが知っている。
慣れない童謡なんか歌ってあげたりしながら、眠る竜輝の頭をなでていた光景を思い出す。
相変わらず口下手な啓一だが、きっと啓一の中でも私と同じように変化があったと思う。
そして、今回の一件で、私の啓一に対する信頼感は揺ぎ無いものになった。啓一もそうであってほしいと思っている。