分岐点 (後編)
『雅也のためなら何でもするわ』
何度も彼女の目を思い出す。
私も彼女と同じ目をしていたんじゃないだろうか。
『竜輝のためなら、何だってするわ…』
子どもを守ろうとする、強い意志を持った目。
もし、あの時、啓一が助けに来なかったら…。
彼女の腹にハサミを突き立てていたのは、…私だったかもしれない。
白い服に広がる黒い染み。
雅也君の立ちすくむ姿に、自分をだぶらせる。
背筋が寒くなる。
いつ、どんなきっかけで自分も向こう側の人間になるか。
いったいどこで人生が狂わされるのか。
私たちは、常に分岐点に立っている。運命を変える分岐点に。
常に選択を迫られている。
普段、そんな事を考えながら生活などしていられない。今まではそうだった。
今は違う。
この選択は合っているのだろうか、間違っていないだろうか、目に見えぬ未来に不安を抱く。
そもそも、今歩んでいるのは、自分で選んだ道なのだろうか。
それとも他人によって選ばされている道なのだろうか。
どんな未来になるかなんて、誰にも分からない。