分岐点 (後編)
『うらやましかったんだ。竜輝君のことが、いつもうらやましかった。』
『おばさん、ごめんなさい…』
雅也君の声が耳にこびりついて離れない。
あの言葉は、十五歳の雅也君の本心なのだ。
『おばさん、ごめんなさい…』
きっと、あの言葉は嘘なんかじゃない。
竜輝のことがうらやましかったという雅也君。
母親の期待に応えたい思いと、自分の思う通りに生きたいという思い。
雅也君が優しい性格だったのは知っている。
優しいあまり、自分の思いを表出することができなかったのか。それとも、自分の思いを表出する場を作ってもらえなかったのか。
ジリジリと少しずつ追い詰められ、逃げ道がなくなってしまったネズミのように。