分岐点 (後編)
「…竜輝、竜輝を!」
振り返ると、変わらず押し入れから覗く白い手。それを見た啓一もさすがに顔を強張らせていた。私は震える手で、その手をつかみ、引っ張り出した。
冷たい手。
あの日着ていた服。グニャリとした体。
「竜輝…」
少し痩せた竜輝を抱きしめた。
ぎゅうっと、壊れそうなほど強く抱き締めた。
「竜輝、竜輝!」
竜輝の口元からかすかに聞こえる呼吸音。あわてて竜輝の胸に自分の耳を押し当てた。
…ドック、ドック、ドック…
―生きてる…!
―生きてる…!
―あぁ…神様!ありがとうございます!ありがとうございます!
何に、誰に、どうやって感謝したらいいのか分からない!
目の前にいる竜輝が呼吸をしている!
「竜輝!竜輝!啓一、生きてるよ!竜輝、生きてるよ!」
涙が次から次に溢れた出る。
竜輝を抱き締めたまま、ウワンウワンと泣きあげた。こんなにも人目を気にせずに泣いたのは初めてだった。
啓一もしゃがみ込み、一緒に竜輝を抱き締めた。
「お帰り、竜輝…。」
啓一の言葉に、また涙が止まらなくなった。
―お帰り、竜輝。