分岐点 (後編)
「何で…」
彼女はゴロリと床に横たわった。
じわじわと滲みながら広がる黒い染み。
「あぁっ…!」
私は思わず啓一の腕に顔を伏せた。
林刑事が素早く雅也君を取り押さえ、加藤刑事が彼女の救命処置をしながら電話で指示を出している。お昼のドラマを見ているような光景。
その間、雅也君は何事もなかったかのように、またぼんやりとしている。
「うらやましかったんだ。竜輝君のことが。いつもうらやましかった。」
か細い声。
「おばさん、ごめんなさい…」
視線を合わさない雅也君の小さな声が、暗闇に溶けた。