分岐点 (後編)
―負けるわけにいかない…!
残りわずかな体力で、目の前にある細い両足を抱え込んだ。
「あっ!」
彼女の軽い体は簡単に転がり、しりもちをついた。
「僕は、悪くない、僕は、悪くない」
雅也君がはっきりとした口調で呟き始めた。
私は、体を起こそうとした彼女の右足に噛みついた。
「ギィャッ!」
動物みたいな声が聞こえた。
口の中に鉄の味が広がり、吐き気を催す。
「私だって、同じよ…。竜輝のためなら、何だってするわ…。」
そう呟き、もう一度同じ足に噛み付いた。
一度目よりも、強く、深く、自分の歯が彼女の肉に食い込む。
「アアッ!!」
彼女は、私を振り払おうと、もう片方の足で私の肩や腹部を蹴り飛ばす。
「ぐぅぅ…!」
思わず口を離し、むせ、唾液を垂らした。
見ると彼女はふらつきながらも立ち上がっていた。
―負けてたまるか…!
グッと息を呑み、上半身を起こしながら視線を合わせた。
睨みつけるだけの気力は残っている。
「…絶対に竜輝を連れて帰る…」
浅い呼吸しかできない。
彼女も息を乱して、長い髪の間からこちらをじっと見ている。
―なんとしてでも連れて帰る
「…おかげさまで、何やっても許される病名を頂きましたから…」
ハッとしたように、彼女の目が大きく見開いた。
「…何をやってもね…」
彼女は私の言葉の意味を理解し、一瞬ひるんだように見えた。
その隙に、私は自分の体勢を整えようと膝を立てた。
その時、部屋の外から物音が聞こえた。
―もしかして…
わずかな望みにかけた。もし彼女の仲間だったら…とも考えた。でも、そうじゃない、きっと…、きっと…。
「啓一っ!」
喉から祈りを絞り出した。