分岐点 (後編)
…どこで、どう間違ったというのか。
いや、間違ってなんかない。
私たち親子に間違いなんてない。
夕方、仕事の途中で一旦家へ戻った日があった。
うちの玄関に似つかわしくない靴があった。安っぽい青色の長靴。2階から微かに聞こえる笑い声。あの子が来てるとすぐに分かった。
私と話す時にはあんな間抜けな声で笑わないのに。
レベルの低い存在は、うちの雅也に関わらないでほしい。長靴の存在に苛立ちを感じ、庭に投げ捨てた。
『絶対に部屋に入らないで』
そう言われて、ショックを受けた。反抗期もなかった雅也が私に隠し事をするなんて。
何でそんなこと言うの?見られたくないものでもあるの?
本の後ろに並べているコレクションの事なら知ってるわよ。素敵な趣味じゃないの。
医学の道を歩む者としては、きっと不可欠なものなのよ。私の息子の雅也のすることだから、間違っているはずがない。