分岐点 (後編)
坂木雅子視点
雅也は前夫の子だ。
特に後ろめたさを抱いたことはないし、今の夫も雅也のことを自分の息子のようにかわいがってくれた。
けれど、私たち親子を救ってくれた夫のために、恩返しはしたかった。
経営管理に携わるとともに、看護部の長として、100名近くの看護師たちを育ててきた。坂木病院を夫とともにここまで成長させてきた。
そして一番の恩返しとして、雅也に病院を継がせたかった。夫の坂木病院をこれからもずっと繁栄させたい。そして、雅也自身のためにも、いずれは院長になって立派な人生を送ってもらいたい。
前夫のような人間にはなってもらいたくない。
雅也には病院を継ぐことのできる、レベルの高い人間になってもらいたかった。
夫のため、雅也のため、その思いだけだった。
私の教育のおかげで、雅也は頭も良く、素直な子に育った。反抗期なんてくだらない過程もなかった。
やはり雅也は他の子とは違うのだ。
近所の子たちを見ながら、毎日、そう思っていた。