分岐点 (後編)
「最初からやっぱり雅也君が…?…だとしたら、お母さんはあなたのために…。」
坂木さんの異常な行為が脳裏に浮かぶ。
―あの人は、雅也君が犯人だとばれないように、私を閉じ込めて…。
それまで独り言をつぶやいていた雅也君が突然口を閉じ、顔をグルリとこちらに向けた。
「ア、ア、アイツの話をするなぁっ!」
もはや普段の温厚な顔は微塵もなかった。
一瞬で私の胸ぐらをつかみ、私は再び床へ叩きつけられた。スケート選手が転倒した時のように、フローリングを滑って、壁と押し入れの扉に背中からぶつかった。
「ぐぅっ…。」
呼吸がほんのわずか止まる。
ぶつかった際に、ガタッと押入れの扉がはずれかけた。
と、同時に何かが落ちる音がした。
パタン…
押入れの中身が転がり出たのだろうと思い、視線だけ動かして、見た。
「…あっ…。」
それは…。
押入れからのぞいていた一部は…。
白く、細い、小さな手だった。