分岐点 (後編)
「うっ…。」
避けきれず、重い辞書が肩にぶつかる。
「早く出て行ってくれませんかね…。」
肩を押さえた。
痛みのせいではなく、いつもの雅也君とのギャップが怖くて動けなかった。
「それとも…おばさんも…竜輝君みたいになりたいんですか…?」
―なっ…何て…
―この子、何を…
「どういうこと…」
雅也君の目をじっと見つめた。
「簡単だった…。竜輝君は俺になついてたし、声かけたらすぐ着いて来たから…」
薄暗い部屋の中、オレンジ色に浮かぶ顔。
雅也君は、視線をギョロギョロと動かし、爪を噛み始めた。
「僕は、悪くない、僕は、悪くない」
ガリガリと爪を噛んでいる。いや、指を噛んでいるのかと思うくらいの鈍い音が部屋に響く。
理屈じゃなく、ゾッとした。