分岐点 (後編)
「何してるの?」
落ち着いた声。
「!!」
声だけで、誰なのかはすぐに分かった。声変わり仕切れてないが、落ち着いた聞き取りやすい声。
ゆっくりと振り返った。
―雅也君…
「こんばんは、竜輝君のお母さん。」
にっこり微笑むその顔はまさにお母さんの遺伝子を引き継いでいる。
いつも見る学生服ではなく、パジャマ姿なのがかえって不自然に見えた。
「あ、あ…。」
言葉が上手く出ない。
体がピクリとも動かない。
「遊びに来るにはあまりに遅い時間ですよね。それに、入院したって聞きましたけど?」
そうつぶやきながら、雅也君はそばにあった分厚い辞書を手に取った。
「待って…。」
言うか言わないかのうちに、辞書が投げつけられた。