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始まりの朝

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恵助が出て行った後。
「やっぱり、俺じゃ駄目なのかな」
幸助は、誰にともなく一人ごちた。

…恵助のことが好きだった。
でも、恵助が自分のことをどう思っているのか、人の心に疎い幸助には分からなかった。

恵助の傍は心地良い。
ずっとそばに居られたらいいと思う。

しかし、自分は恵助が笑顔になるような事をしてあげられない。

せめて自分が女だったら。
兄弟じゃなかったら。

そんな事を本気で考えた。
でも、他人だったら、そもそもこんなことにはなっていなかっただろう。

恵助が自分の面倒を見てくれているのは、兄弟だからだ。
体調が心配なのもあるかもしれない。
自分は抜けているところがあるから危なっかしいのかもしれない。

でも、それは“兄弟”という前提の上に成り立っているものなのだ。

恵助は基本的に、家族以外に興味を持たない。

こんなに優しいのも、“家族”だから。“兄弟”だから。
“兄弟”じゃなかったら、自分など恵助に見向きもされないだろう。

それなら、“俺”である意味は?

そこまで考えたとき
「兄貴、入ってもいいか」
と、恵助が幸助の部屋のドアを叩いた。
「あぁ、大丈夫。入っていいよ」
…いつまで恵助は俺の傍に居てくれるのだろう。

遠慮がちに入ってくる恵助を見ながら、そう思った。

作品名:始まりの朝 作家名:笹原蓮華