始まりの朝
「恵助、買い物ついてきてくれよ」
「言われなくてもそのつもりだ。兄貴は一人で歩かせるとすぐ迷うからな」
「そうなんだよね。恵助や桜助は違うのに、なんで俺は方向音痴なんだろう?」
「さあな。まぁ、いいんじゃないか」
兄貴と一緒にいる時間も増えるし。
などと恵助が思っていると、
「俺的には恵助と一緒にいられる時間が増えるからいいけどね」
と、幸助が言った。
…おなじ事思ってたんだ。
ほんのりと心があたたかくなる。
しかし、
「何言ってんだよ。そういえばノートとかペンとかは買わなくてもいいのか?」
と、咄嗟に話題を変えた。
…これでいい。
兄貴は恋愛感情で言ってるんじゃ、ないんだから。
弟に恋愛対象として見られているなんて、気持ち悪いに決まってる。
この気持ちは、誰にも気付かれてはいけない。
自分の中だけにしまっておかなければ。
「そういえば、黒のボールペンが出なくなってたんだった。ありがと、恵助。
じゃあ、文具店にも寄っていい?」
「あぁ。そうだ、これ今日の着替え。ちゃんとコーディネートしといたから」
恵助はそう言って、枕元に着替えを置くと、食器をお盆に戻し、
「じゃあ、オレ食器片付けてくるから」
と言って部屋を出た。
苦しい。…言ってしまいたい。
でも、言えない。
兄貴は、オレなんかが汚していい人間じゃない。
オレは、兄貴の喜ぶ顔が見られれば、それでいい。
それだけで、いい。