分岐点 (中編)
実家まで自転車で十分くらいの距離だ。
保育園の前を通り過ぎる。夕暮れ時、迎えの親子の姿。いつも通りの光景。
あの親子たちの中に私たちもいたのに。
無意識にペダルを早くまわし、実家へ急いだ。
実家へ着き、玄関を開けるとぎょっとした。
真っ暗な玄関に千恵が体育座りで待っていたのだ。
いつもゲラゲラ笑うか、わんわんと泣くか、喜怒哀楽の激しい千恵。
それなのに…。
お泊りのかばんをぎゅっと抱えたまま、うつむいている。
私の顔を見た途端、じわーっと涙が浮かび、小さくウッウッとしゃくり出す。
「千恵ちゃん。」
腰を落として声をかけるが、千恵は固まったまま動かない。大きな瞳から涙がポロポロとこぼれる。
「ごめんね、千恵ちゃん。かあちゃんと帰ろう。」
千恵はゆっくり立ち上がり、私の首に小さな腕をまわして、抱きついてきた。
小さな体をぎゅっと抱きしめる。
あったかい涙の感触と甘いビスケットの匂い。