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分岐点 (中編)

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夕方、私の携帯電話が鳴り響く。昨日から何度も聞く、場にそぐわない明るい着信音。
竜輝の好きな機関車のアニメの音楽。
それは実家からの電話だった。
あの日から、千恵は私の実家にあずけている。
通話ボタンを押すと、これでもかというくらいの大音量の泣き声。一瞬竜輝かと思い、息を呑んだが、すぐに千恵の鳴き声だと分かった。
泣き声にかき消されそうになりながら、私の母の声が聞こえてきた。
「もしもし?瑞樹?」
「お母さん、どうしたの?」
「ちょ、ちょっと待って、千恵ちゃん!」
おそらく千恵が電話を奪おうとしているのだろう。ガサガサと布がすれるような音とともに、千恵の大きな声が聞こえる。
「かあーちゃあーーん!!」
その声からは、2歳児の寂しさが伝わってきた。思わず胸が熱くなる。
「千恵ちゃん。」
電話越しに声をかけると、千恵の泣き声がより大きくなる。
「ち、千恵ちゃんねー、かーちゃんいないからぁ、さびちいのよー!!」
言い切った後、うわーうわーとサイレンのような声が遠ざかっていく。
「あ、もしもし?今、じいちゃんに抱っこしてもらったから。こっちに2晩泊まったでしょう、千恵も限界よ」
千恵の精神状態も心配だし、祖父母の体力も心配だ。
「ごめんね、とりあえず今日は迎えに行くわ…。」
「ねえ、ところで、竜輝は…。」
「うん、なんにも…。」
「そう…。」
お互い言葉に詰まり、無言で電話を切った。

作品名:分岐点 (中編) 作家名:柊 恵二