分岐点 (中編)
家にたどり着き、1階のリビングの灯りが見えた。
良かった…家にいる。
玄関の扉に乱暴に手をかけるが、もちろん鍵がかかっていた。
「啓一!啓一!」
狂ったように名前を呼び、扉を叩いた。
1分もなかっただろうが、長い時間に感じられた。
鍵とチェーンが解かれる音がし、目を丸くした啓一が顔を覗かせた。
「どうしたんだ!」
返事する間もなく、なだれ込むように中へ押し入った。
「早く鍵を!」
ハッとしたように啓一が鍵をかける。チェーンロックをかけるの確かめ、私は腰が抜けたように玄関で動けなくなった。
「千恵は?」
喉がカラカラだ。
「もう寝てるよ。それよりも、お前…」
啓一も、私の姿を見て、何て声をかけたらいいのか分からないのだろう。
「私はおかしくないわ!信じて!」
今まで生きてきた中で、一番真剣に訴えた。
啓一がじっと私を見つめた。
「お願いよ…」
消えるような声でそう言うと、啓一はニッと歯を見せ笑った。
「分かった。信じる。」
心底ホッとした。
―良かった
―この人が夫で、本当に良かった…。
「だけど、なんでこんな事に…。」
それもそうだろう。入院したはずの妻が、裸足で雨の中、傷だらけで帰ってきたのだから。
「詳しく説明してる暇がないの!これを見て!」
私はパーカーのポケットに手を突っ込んで、それを見せた。