分岐点 (中編)
いつもの見慣れた道なり。
裸足のまま駆け抜ける。足の裏が刺すように痛い。
霧雨が顔を湿らす。
―早く、早く、もっと早く…
日頃の運動不足を悔やんだ。足がもつれ、アスファルトの道に倒れ込む。
手の平が擦りむけ、血が滲む。
―あともう少し…。
肩で息をし、震える膝に手を置いた時だった。
「杉川さん。」
聞き慣れた声。
座り込んだまま振り返った。
「ひっ…」
声を出したのか、息を吸ったのか、自分でもよく分からない。
「足、早いのねぇ。」
黒い上品な傘をさして、ゆっくり近づいてくる。
表情はあい変わらず仮面のように、変化しない。
日本人形のように綺麗な顔。
「薬、増やしておけば良かったわね。」
ゆっくり音も立てずに近づいてくる。
―嫌だ、嫌だ…
ここまで来て、捕まる訳にはいかない。
白い手が伸ばされる。反対の手に何か握られているのが見えた。
もうその手には乗らない…
彼女がギリギリまで近づいいたその時、体をバネのようにして体当たりをした。
細い体はあっという間に転がり、その仮面のような表情を歪めた。
彼女が手にしていた注射器を奪い取り、側溝のドブに投げ捨てた。
私は素早く半身をひるがえし、走り出した。
「……!!」
後ろから小動物のような奇声が聞こえたが、構わず走り続けた。